「僕の見た夢が、これから訪れる"運命"なのかどうかを知りたい」

「へえ、それはまた面白い相談だね。自分の未来を夢に見たのかい?」

「違うよ。僕じゃなく、大切な人の……死ぬ夢なんだ。もう、何度も見ている」

「ふん? 大切な人が死ぬ夢、ねえ」

 まず、一つ目に。
 ミズキは小さな筒の上で、ひっくり返した煙管をトントンと指で叩く。

「私が見えるのは、その人の持つ星回りというやつでね。運命とは似ているけれど、少し違う。それこそ夢のように、正確な映像が見えているわけじゃないから、私の解釈の上に成り立っている。だから、"占い"と言っているのだけどもね」

 それから二つ目に。
 言いながらミズキは僕の傍まで歩を進め、上から見下ろしてくる。

「私は気に入った相手しか見ないし、この場にいない人間のものは見れない。ってことで、坊っちゃんの期待には応えてあげられない。すまないね」

「……そう」

 駄目だ。時間の無駄だった。
 気落ちする僕に、ミズキは「お茶でも淹れようか」と僕に座るよう促して、

「坊っちゃんの夢が"運命"かどうかを見てやることは出来ないけど、話を聞いてやることはできるよ」

「え……?」

「こんな怪しい店に、ひとりで乗り込んでくるくらいだ。よほど切羽詰まっているんだろう? 私も興味深い内容だしね。ひとつ、悩む頭の数を増やしてみるってのはどうだい? 私はこう見えて、お前さんのお父様よりも長くを生きているよ」

(父上よりも長く……? そうは見えないけど)

 目尻を赤く塗っているのも影響しているのか、膝を軽く折ってにこにことしているこの異国の占い師とやらは、頑張っても母上と同じ程度の若さに見える。
 母上は父上よりも五つほど若い。

 退屈凌ぎにからかわれているのかもしれないけれど、確かに僕にはもう、他に縋るあてがない。

(この人なら、話したところでマリエッタとは接点がないだろうし)

 そうして僕は、自分の繰り返し見る悪夢を話し始めた。
 ミズキは時折質問を挟みながらも、好き勝手話す僕の対面で、真剣に聞いてくれていて。結局、たったの一度も茶化すことはなかった。
 話し終えた僕に、「……そうさねえ」と思案しながら、

「その夢の中に、成長したお前さんはいたかい?」

「……僕の見える範囲には、一度も」