あんな"悪女"になるなんて、ありえない。
(さっさと忘れてしまおう)
そう自身に言い聞かせ、僕は日常に戻ろうとした。
幸い、笑顔で取り繕うのは得意だった。
けれどもそんな僕を戒めるかのように、数日おきに、あの悪夢が何度も繰り返されるようになった。
(もしかしたら本当に、あれはマリエッタの未来……?)
馬鹿らしい、という理性を、じわりと恐怖が蝕んでいく。
とはいえアレが夢なのか否かなんて、確かめる術もない。
(マリエッタの父上に、アベル様との婚約の話が来ているか確認だけも……。いや、僕の質問がきっかけで婚約の話が出ても嫌だしな)
誰にも言えない。言ってはいけない。
告げたが最後、医者を呼ばれるに違いない。それに、マリエッタをあの夢の通りの運命に導いてしまうような気がして、僕はひとりで悩み続けていた。
そんな、ある日のことだった。
招かれたお茶会で、噂好きのご令嬢が"路地裏の占い師"の話をしてきたのだ。
「王都のとある路地裏に、よく当たると評判の占い師がいらっしゃるそうですの。ルキウス様、ご存じありません? わたくし、是非ともルキウス様との未来を占っていただきたく、必死に探しておりますのよ」
「占い師……」
普段なら、その場限りの話題として受け流してしまえるのに。
途端に目の前が開けたような気がして、僕はこっそりと王都に通っては噂の占い師を探した。
僕がまだ十にもならない少年だったからか、変装していたとはいえ、身なりが整っていたからか。
話しかけた街の人々は、皆、優しかった。
ある人に訊ね、またある人に訊ね。
そうして辿り着いたのが、ミズキの店だった。
「運命を見れるって、本当なの?」
会合一番に訊ねた僕に、煙管をふかしていたミズキは不意を突かれたように目を丸めた。
当然だろう。だって本当に、扉を開けてすぐに訊いたから。
礼儀のなっていない生意気な子供だと憤慨しても良さそうなものなのに、ミズキは面白そうなものを見つけたとでも言いたげに、にっと口端を吊り上げて、
「坊っちゃんは、運命を知りたいのかい?」
(さっさと忘れてしまおう)
そう自身に言い聞かせ、僕は日常に戻ろうとした。
幸い、笑顔で取り繕うのは得意だった。
けれどもそんな僕を戒めるかのように、数日おきに、あの悪夢が何度も繰り返されるようになった。
(もしかしたら本当に、あれはマリエッタの未来……?)
馬鹿らしい、という理性を、じわりと恐怖が蝕んでいく。
とはいえアレが夢なのか否かなんて、確かめる術もない。
(マリエッタの父上に、アベル様との婚約の話が来ているか確認だけも……。いや、僕の質問がきっかけで婚約の話が出ても嫌だしな)
誰にも言えない。言ってはいけない。
告げたが最後、医者を呼ばれるに違いない。それに、マリエッタをあの夢の通りの運命に導いてしまうような気がして、僕はひとりで悩み続けていた。
そんな、ある日のことだった。
招かれたお茶会で、噂好きのご令嬢が"路地裏の占い師"の話をしてきたのだ。
「王都のとある路地裏に、よく当たると評判の占い師がいらっしゃるそうですの。ルキウス様、ご存じありません? わたくし、是非ともルキウス様との未来を占っていただきたく、必死に探しておりますのよ」
「占い師……」
普段なら、その場限りの話題として受け流してしまえるのに。
途端に目の前が開けたような気がして、僕はこっそりと王都に通っては噂の占い師を探した。
僕がまだ十にもならない少年だったからか、変装していたとはいえ、身なりが整っていたからか。
話しかけた街の人々は、皆、優しかった。
ある人に訊ね、またある人に訊ね。
そうして辿り着いたのが、ミズキの店だった。
「運命を見れるって、本当なの?」
会合一番に訊ねた僕に、煙管をふかしていたミズキは不意を突かれたように目を丸めた。
当然だろう。だって本当に、扉を開けてすぐに訊いたから。
礼儀のなっていない生意気な子供だと憤慨しても良さそうなものなのに、ミズキは面白そうなものを見つけたとでも言いたげに、にっと口端を吊り上げて、
「坊っちゃんは、運命を知りたいのかい?」