それにね、とミズキ様は茶目っ気たっぷりに微笑んで、

「マリエッタ様は、変化を恐れずに受け入れていく強さをお持ちだよ。納得いかない部分もあるだろうけれど、もっとご自分を信じてあげて。ね?」

「……ありがとうございます、ミズキ様」

 初対面の、出会ってからまだほんのわずかしか経っていないというのに、ミズキ様は私を"強い"と称してくれた。
 認めてくれたのだ、私を。
 ただ変化に怯える気弱な令嬢ではなく。大人しく沈黙を保つ令嬢であれと、淑女を求めるでもなく。

(だからルキウス様は、ミズキ様に懐いてらっしゃるのね)

 納得と、嬉しさにほわほわと心が浮き立つのを感じながら、私は手の内のカンザシを持ち直してミズキ様にお返しする。
 ミズキ様は「ありがと」と受け取ったそれで、器用に髪を束ねながら、

「ルキウスとの婚約を破棄しようにも、なかなか大変だろう? アレは昔からマリエッタ様至上主義だからねえ。ひと休みしたくなったら、いつでもおいで。力を貸すよ。マリエッタ様なら大歓迎だ」

「心強いお言葉、ありがとうございます、ミズキ様」

 感謝を込めて頭を下げてから、私はぐるぐる渦巻く胸中のわだかまりを口にする。

「あの、ミズキ様。この、私のアベル様への気持ちも、先ほどの"荒れ模様"のひとつなのでしょうか」

「うん? そうだねえ……嵐の中心には、確かに彼がいるようだ」

「……それは、私がアベル様を想うことによって、嵐が引き起こされているという意味ですの?」

(だとしたら、この恋心はこれから大勢を巻き込んでしまう、"よくない"ものなのでは)

 おそるおそる訊ねた私を見下ろして、ミズキ様の双眸が驚いたように見開かれる。
 けれどもすぐに優しい光を帯びて、

「私たち人間には、感情ってもんがある。それは運命に左右されるべきではないと、私は思うよ。それに未来ってのは、選択次第でどうとでも変わっていくものだからね。マリエッタ様がいま抱えている気持ちは、大事にしてあげてほしいかな」

 諭すような優しい言葉が、私の不安をじわりと溶かしていく。
 涙が浮かびそうな衝動を必死に耐え、私は感謝の笑みでミズキ様を見上げた。