差し出されたカンザシを戸惑いつつも受け取る。
 突然、どうしたというのだろうか。不安にルキウスをちらりと見遣ると、私を安堵させるように柔く微笑んで、

「ミズキはね、この辺では名の知れた占い師なんだ。その人が今どんな"運命"に立っているかが見えるのだけれど、気に入った相手しか視てくれないんだよね」

「それはもしかして、このカンザシで私の運命を見てくださるということですの?」

 言いながらミズキ様を見遣ると、彼は小気味よく肩をすくめ、

「運命だなんて、そこまで大層なものじゃないよ。ちょいと星回りを覗かせてもらって、好き勝手言っているだけさ」

 ミズキ様がカンザシに向かって指先を伸ばすと、先端につけられていた雫型の粒たちが光を帯びた。
 綺麗。ふよふよと揺れ動くそれに見惚れる私を、ミズキ様が真剣な面持ちでカンザシ越しに見つめる。

「……ああ、なるほどねえ。マリエッタ様は、"運命の出会い"を果たしたんだ?」

「! やはり、アベル様は私の"運命の人"ですのね!?」

「うーんと、運命の人といえば運命の人だけれども、将来の伴侶とかそういった意味合いの"運命の人"ではないよ。そういうのは運ではなく、人が……自分の心で決めるものさ」

「そう……ですわね」

 落胆の中に、ほんの少しだけ、安堵。
 その理由に思考を巡らせる前に、ミズキ様が目じりを和らげ、

「マリエッタ様。どうやらお前さんはこれから、変化の時期に入るようだ。それも少し、荒れ模様のね」

「荒れ模様……」

「なあに、怯えることはないさ。ひとつひとつ、時間をたっぷり使って迷ってみるといい。物事ってのは、気づかないところで連なっているからね。決断を急いで、後々身動きが取れなくなってしまっては嫌だろう?」

 ミズキ様が手を退けると、カンザシの光がふと消えた。
 途端、ミズキ様はにっと楽し気に口角を上げて、

「マリエッタ様の想い人はアベル様かあ。うーん、お目が高い!」

「!? あのっ、このことはどうか他には……!」

「言わないさ。マリエッタ様にはちゃーんとご自分の意志で、心に向き合ってほしいしね。外部からの騒音ほど、思考を鈍らせるものはない」