「初めてだし、こうして半分に割ってから冷まして食べるといいよ。この菓子は表面こそ冷めたように見えて、中の餡子がおそろしく熱いから。そうだ、丁度いい温度になるまで僕が冷ましてあげて――」

「ですから、結構ですわ。そうした所が"妹扱い"だと言っているのです」

「えー、僕はマリエッタが大好きだから、火傷なんてさせたくないのだけれど」

「それは、分かっておりますが。私はかいがいしく世話されるよりも、共に並び立てる一人の人間として認めていただけるほうが何倍も嬉しいですわ」

 告げながらも手元に集中して、鯛焼きを慎重にふたつに割る。
 途端に湧き出る白い湯気。現れた黒い中身が"餡子"なのだろうけど、黒い豆というのは初めて食べる。

 緑茶にしたように、息を吹きかけて。
 そーっと口に含んで、一口分をあむり。

「…………っ!」

 甘い。魚の形をした生地も、餡子も。それぞれにしっかりと甘味を感じるのに、なぜかまったく、くどさを感じない。
 どころか深い餡子の甘さをもちっとした生地が軽やかにしてくれているようで、どんどん食べ進めてしまう。

 それに、この緑茶だわ。
 舌に残るもったりとした餡子が緑茶の渋みと合わさると、心が落ち着くような、安堵感にまどろんでしまう。

「ミズキ様のいらしたお国は、きっと、皆が幸せに笑い合う、心の温かな国なのでしょうね」

 奇抜な形に笑い合い、ゆっくりと熱を冷ましながら食べ終えるまで、共に語らい合い。
 緑茶と鯛焼きを味わいながら異国に思いを馳せる私を眺めて、ミズキ様がぼそり。

「なるほど、なるほど。こりゃあ、ルキウスが過保護になるワケだ」

「ね? 可愛いでしょ」

「な……!? 私、なにか変なことを申しましたかしら!?」

「なあに、清らかで可憐な花ってのは、誰もが欲しがるからねえ。悪いものに害されないように、守り手が必要ってね。付け加えるのなら、私もマリエッタ様が大好きになっちゃったなあ」

 というわけで。
 ミズキ様がするりと腕を上げ、自身の髪からカンザシを引き抜いた。
 艶やかな藍の毛束がはらりと解ける。

「ミズキ様、御髪が……!」

「ああ、これ? ヘーキヘーキ、簡単に戻せるから。それよりもマリエッタ様、ちょっとこれを持ってくれるかい?」