「おや、素晴らしい舌だね。紅茶も緑茶も、茶葉は同じなのさ。けれども加工の仕方が違ってね。緑茶は葉を発酵させないよう、摘み取ったらすぐに蒸しちまう。対して紅茶は、火をいれずに発酵を繰り返して乾かすのさ。だからあの独特な酸味が出るんだろうよ」
口に合ったのならなによりだねえ、と。今度は掌より少し大きいお皿を眼前に置いてくれる。
「こっちも焼き立てだからね」
皿に乗るのは茶色い、魚――の形で焼かれた、お茶菓子のよう。
(これがルキウスの言っていた、魚のお茶菓子)
見たところ、魚が使われているようには思えない。
貝の形を模したマドレーヌのように、素材には使われていない焼き菓子なのだろうか。それから漂うのは、甘くて香ばしい、食欲を誘う香り。
(なんて美味しそうなのかしら……!)
「いいねえ。嬉しい顔をしてくれるじゃないか、マリエッタ様」
「へ!? 嫌ですわ私ったら、頬が緩んでしまって……!」
「いいのいいの、ウチは淑女のマナーとか全く必要ないから。むしろ、そうして素直に感情を出してもらえたほうが作りがいがあるってものだよ。それはね、"鯛焼き"っていうんだ」
「たい、やき……ですか?」
「そう。鯛っていう名の魚の形をした、まあ、こちらで言うところの焼き菓子かな。中には"餡子"っていう、お砂糖で甘く炊いた豆が入っているのだけれど、そっちも熱いから火傷には注意だよ。ちなみにルキウスは人の話をちっとも聞きやしなくて、ばっちりやらかしたから」
「まあ、ルキウス様が?」
驚いてしまったのは、ルキウスは幼い頃からどちからかといえば、慎重な性格だったから。
そんなルキウスが、話を聞かずに火傷を。
私の視線を受けたルキウスは、気まずそうに視線を逸らし、
「否定はしないけれどね。あの時はとにかくお腹がすいて仕方なかったんだ。それに、ミズキだってこんなにも丁寧に説明してくれなかったし」
「よく言うよ。私がいくら説明してやったところで、たいして聞きもしないのはそっちだろう? 腹に入れば同じとばかりにペロっと平らげちまう。まったく、可愛げのない」
呆れたように首を振るミズキ様を無視して、「それよりも、マリエッタ」とルキウスは自身の鯛焼きを手に取る。
口に合ったのならなによりだねえ、と。今度は掌より少し大きいお皿を眼前に置いてくれる。
「こっちも焼き立てだからね」
皿に乗るのは茶色い、魚――の形で焼かれた、お茶菓子のよう。
(これがルキウスの言っていた、魚のお茶菓子)
見たところ、魚が使われているようには思えない。
貝の形を模したマドレーヌのように、素材には使われていない焼き菓子なのだろうか。それから漂うのは、甘くて香ばしい、食欲を誘う香り。
(なんて美味しそうなのかしら……!)
「いいねえ。嬉しい顔をしてくれるじゃないか、マリエッタ様」
「へ!? 嫌ですわ私ったら、頬が緩んでしまって……!」
「いいのいいの、ウチは淑女のマナーとか全く必要ないから。むしろ、そうして素直に感情を出してもらえたほうが作りがいがあるってものだよ。それはね、"鯛焼き"っていうんだ」
「たい、やき……ですか?」
「そう。鯛っていう名の魚の形をした、まあ、こちらで言うところの焼き菓子かな。中には"餡子"っていう、お砂糖で甘く炊いた豆が入っているのだけれど、そっちも熱いから火傷には注意だよ。ちなみにルキウスは人の話をちっとも聞きやしなくて、ばっちりやらかしたから」
「まあ、ルキウス様が?」
驚いてしまったのは、ルキウスは幼い頃からどちからかといえば、慎重な性格だったから。
そんなルキウスが、話を聞かずに火傷を。
私の視線を受けたルキウスは、気まずそうに視線を逸らし、
「否定はしないけれどね。あの時はとにかくお腹がすいて仕方なかったんだ。それに、ミズキだってこんなにも丁寧に説明してくれなかったし」
「よく言うよ。私がいくら説明してやったところで、たいして聞きもしないのはそっちだろう? 腹に入れば同じとばかりにペロっと平らげちまう。まったく、可愛げのない」
呆れたように首を振るミズキ様を無視して、「それよりも、マリエッタ」とルキウスは自身の鯛焼きを手に取る。