どうして。
 どうしてそう、悲しみを帯びた瞳で私を見るのだろう。

 先ほどまでの甘さとも、戯れめいたそれとも違う。
 どこか祈るような響きを含んだ言い回しに違和感を覚え、尋ねようとした刹那。

「楽しそうなトコ悪いね、お二人さん」

「! ミズキ様」

「用意が出来たから運ばせてもらうよ。ほら、ルキウス。マリエッタ様はお疲れなんだから、余計な体力使わせるんじゃないよ」

「心配ないよ。マリエッタが歩けなくなったなら、僕が抱いて連れていくし」

「え!? へ、平気ですわ! まだまだ自分で歩けます!!」

「ほーら、ルキウス。あんた、マリエッタ様が可愛くてたまらないのは分かるけど、あんまり強引なことやってたら嫌われちまうよ。お前さんはもうちと節度ってもんを覚えたほうがいい」

 ねえ、マリエッタ様。
 同情に似た眼差しを私に向け、ミズキ様が机上に運んできたトレイを置く。

 彼にサーブされたのはティーカップではなく、小さな花瓶のような筒状の入れ物。
 白い湯気のたつ水面を覗き込んでみると、よく知った茶褐色ではなく、葉に似た緑色をしている。

「これは"緑茶"っていう飲み物でね、私の国では紅茶よりも身近なお茶なんだ。ティーカップではなく、この"湯のみ"で飲むことが多いのさ。持ち手がないし、熱いから気をつけて。よく吹いて冷ましてから、ね」

「マリエッタ、マリエッタ。こうして湯のない上のほうと、底のでっぱりに指をかけるとあまり熱くないよ」

 対面の席に戻っていたルキウスが、説明しながら自身の湯呑みを持ちあげる。
 ありがとうございます、と二人に礼を告げて、ルキウスの手元を確認しながらおそるおそる手に取ると、じんわりとした熱が指の腹から伝わってきた。

「僕が冷ましてあげようか?」

「結構ですわ。自分で出来ます」

 見苦しくならない程度の息を何度か吹きかけ、そっと口をつけ傾ける。
 紅茶のひとくちよりも少ない量しか含めなかったけれど、それでも、喉の奥から新緑のような爽やかな風味が溢れた。

「おいしい……! 香りは軽やかですのに、渋みもしっかりと感じられて……。それになんだか、紅茶よりも酸味が少なくて、甘く感じます」