「ねえ、マリエッタ。覚えてる? キミが僕に欲しいモノをねだってくれたのは、キミが初めてお茶会デビューを果たした、五歳の時が最後だよ。それからは、僕がいくらキミに訊ねようと、決して欲しがってなどくれなかった」

「……覚えがありませんわ」

「マリエッタが覚えていなくとも、僕は覚えているよ。だからね、キミが僕のチョコレートスフレを欲しがってくれて、心から嬉しかったんだ。僕にはマリエッタの心を隠さず、"欲しい"って言ってくれるんだって」

「え……?」

「ドライフラワーにしてくれた花だって、飾ってくれるみたいだし。マリエッタは心優しいから、きっと、飾られたあの花を見るたびに罪悪感に苛まれて、僕の姿を思い出すよ。僕としては、喜ばしい限りだね。それだけキミの心を独占できるのだから」

 それにね、とルキウスは静かに立ち上がった。
 呆然と見上げる私へと歩を進め、にこりと笑って床に片膝をつく。

「ルキッ……!」

「聞いて、マリエッタ」

 私の制止を遮るようにして、ルキウスが私の右手をその手で包み込む。

「キミになら、どれだけ連れ回されても苦にならないよ。キミがたくさん悩んで、好んで買った大切な品々を任せてもらえるのだって、僕からしたらとてつもない名誉だし」

 だからね、マリエッタ。
 砂糖菓子のような甘い声で、ルキウスは続ける。

「キミが今日のお供に僕を選んでくれて、本当に良かった。ありがとう、僕を頼ってくれて。もしもキミが他の誰かを連れて行ったなんて聞いたなら、その幸運な相手の家まで赴いて、マリエッタと出会った経緯から僕を押しのけて楽しんだ感想までみっちりと尋問……問いただしに行ってしまうよ」

「……ルキウス様。言い換えたところで、意味はさほど変わっていませんわ」

「あはは、だって羨ましいもの。剣を使わずに話し合いで済ませようとしているだけ、偉いと思うけどなあ」

「絶対に、おやめください」

 ルキウスのことだもの、本気に違いない。

(たかが私と買い物に行ったくらいで"黒騎士"が押しかけてくるなんて、とんだ災難ね……)

 まあ、友達のひとりも作れない私に、そんな日が来るのかはわからないけれど。