(なんでこんなに好き勝手されても、私の身体を気遣えるのよ……!)

「っ、ルキウス様には、名高き"黒騎士"たる矜持《きょうじ》はありませんの……!?」

 わかっている。こんなの、ただの八つ当たりでしかない。
 けれど理解できないのだもの。
 どうしてこんな仕打ちをされてまで、私に優しく出来るのか。

「"黒騎士"の、矜持ねえ」

 ルキウスが静かに瞼を伏せる。

「そんなもの、僕にはないよ。僕が騎士団にいるのは、国への忠義でも、ましてや王家への敬愛でもないのだから。僕はただ、マリエッタをいつでも守れるように、強くなりたかった。マリエッタを悲しませないために、他を黙らせる肩書がほしかった。この身ひとつで求め続けて、辿り着いた先が"黒騎士"だったってだけだよ。僕が誇れるのは、マリエッタへの気持ちだけかな」

「っ、人は、変わりますわ」

 ギシギシと軋む胸中に耐えるようにして、ぎゅうと胸の前で両手を握りしめる。

「今の私は、ルキウス様が好いてくださった私ではありません。ルキウス様の好物と知っていて、卑しくも横取りをするような。贈っていただいた薔薇から色を奪い、街中を忙しく連れ回し、大量の荷物を持たせるような嫌な女なのです……! どうか嫌ってくださいませ、ルキウス様。恩を忘れ、あなた様の優しさを無下にする女に、情をかけてはなりません」

 大切に、大切にしてくれていたのに。
 直接伝えてもらうまで気づかなかったばかりか、私の心は、他に向いてしまった。
 私はルキウスの、"婚約者"だったのに。

(なんてひどい裏切り)

 自分がこんなにも、薄情だなんて思わなかった。
 自分自身でも心から軽蔑するのに。それでもやっぱり、アベル様を想ってしまう。

(ずっと側で、こんなにも与え続けてくれていたのに)

 どうして私は、ルキウスを一番に好きになれなかったのだろう?

「……そうだね。マリエッタは、変わった」

「!」

 自分で言い出したことなのに、ズキンと心臓に突き刺さる。
 私を見つめるルキウスは、どうしてか、これまでと変わらない愛おし気な瞳で、