知らなかった。でも、当然かもしれない。
 思えばルキウスは一度だって、自分から友人や交友関係の話なんてしたことがない。

 と、ミズキ様が「なあに、そう深刻そうな顔をすることないよ」と袖で口を隠しながらけたけた笑って、

「ルキウスは昔っから心が狭いのさ。自分以外の男に、お前さんを紹介なんぞしたくないんだろうよ。恋しい相手が、横からかっさわれちゃあたまらないからねえ」

「えっ」

 微妙にタイミングの良い話題に、ぎくりと身体が強張る。
 途端、空いた机に荷物を並べていたルキウスが、こちらの席に移動しながら、

「ねえ、お喋りはいいから、早いとこお茶を用意してくれないかな。僕は別にミズキと話に来たんじゃなくて、マリエッタと一休みしに来たんだけど」

「ハイハイ、こりゃ失礼いたしました。茶菓子はどうすんだい?」

「あれがいいな、魚の」

(魚の!?)

 茶菓子に魚……?
 私は聞いたことがないけれど、ミズキ様の国にある食べ物なのかもしれない。
 訊ねたい衝動をぐっと耐えていると、ミズキ様は至って普通に、

「はいよ。そんじゃマリエッタ様、少しお待ちくださいな」

 軽く首を傾げたと同時に、ミズキ様の髪飾りがしゃらりと揺れた。仕草の綺麗な人。
 部屋から通ずる扉の奥に姿を消した彼の、残り香のような残影にぽーっとしていると、私の対面に腰かけたルキウスが「やっぱりねえ」と不貞腐れたように言う。

「マリエッタはミズキを気に入ると思ったよ。だから会わせたくなかったのだけれど、優先すべきは僕の我儘じゃなくて、マリエッタだからね」

 なんの話だろうかと小首を傾げた私に、ルキウスは苦笑交じりに肩をすくめ、

「あんまり頑張りすぎちゃうと、足、痛めちゃうよ」

「! 気付いて……っ」

「そりゃ、何年も見てきたのだもの。歩き方がおかしければ、簡単にわかるよ。珍しくはしゃぎまわるマリエッタも可愛いけれど、無理して後に痛みが残ってしまっては、楽しかった記憶もおぼろげになってしまうしね。何よりも、マリエッタの身体が痛むのは、嫌だなあ」

「…………」

 なんなの。
 なんなのよ、もう……!

 好き勝手に連れ回して、大量の荷物持ちまでさせて。
 使用人紛いの扱いをするなって。傲慢で我儘な女なんて、面倒で勘弁だって愛想を尽くして当然なのに……!