「ル、ルキウス様……? 本当に、お任せして大丈夫ですの?」

「ヘーキヘーキ、任せてよ。……あ、ここだよ」

 ルキウスがぴたりと足を止めたのは、赤い格子窓が目を引く、異国情緒たっぷりな家の前。
 周囲から明らかに浮いている、その異様な雰囲気に圧倒されている私に、

「大丈夫だよ。僕は何度も来ているから」

 安心させるように笑んで、ルキウスが「よっと」と扉を開く。

「やあ、ミズキ。少し休ませてくれる?」

 ルキウスに促され店に踏み入れると、そこには長い藍色の髪をゆるりと束ねた、綺麗な長身の女性がひとり。
 その装いは私達の着るドレスとはまったく異なる……そう、確かあれは"キモノ"という服。昔、ルキウスと一緒に見た異国の本に描かれていた。

 髪に飾られた細い棒状のそれは、"カンザシ"という装飾品のはず。
 先には雫のような小さな球体が連なっていて、動くたびにしゃらりと揺れる。

「なんだなんだ、久しぶりに見る顔だと思ったら、ルキウスじゃないか!」

(あ、あれ? 男の方??)

 声の低さに感じた違和感が、顔に出てしまったらしい。
 ミズキと呼ばれたその人は、朱色に塗られた目じりを和らげ「色男なもんで、よく間違えられるのさ」とウインクをひとつ。

 途端、ルキウスが「へえ」と瞳を細めて、

「僕の目の前でマリエッタにちょっかいかけるなんて、覚悟は出来てるんだよね?」

「あー、やだやだ、心がせっまいたらありゃしない。ちょっとしたコミュニケーションってやつじゃないか。それに、私を虐めるよりも、さっさと座らせてあげるべきだと思うけどね」

 どうぞ、お嬢さん。
 軽い調子で手招いた彼が、木製のテーブルに添えられた椅子をカタリと引いてくれる。

「お会いできて嬉しいよ、マリエッタ様。昔っから一度連れてきておくれと頼み込んでいるのに、ルキウスったらいつだって一人で来るんだから」

「え、ええと、お会いできまして光栄ですわ。ミズキ様……で、よろしいのかしら?」

「おっと、ご挨拶が遅れて申し訳ないねえ。私のことはミズキと呼んでおくれ。年齢は秘密。ルキウスが小生意気な鼻たれ小僧の時からの付き合いなもんで、友達ってよりはうんと年の離れた兄って気分かな」

「そ、そうですの……」

(そんな昔からの知り合いだったなんて)