ついでとばかりに机上に飾られた紫の桔梗の花を手に取り、私の隣まで歩を進め、

「いっそ、僕が死んでしまったほうが、キミは自由になれるのにね」

「な……っ!」

 つい、と。優しい手つきで私の耳元に、ぷつりと茎を折った花を挿し、

「うん、この花もよく似合うね」

 にこやかに笑むルキウス。
 私は離れていく手をとっさに掴み、力一杯にらみつけ、

「そういったご冗談は、私、大嫌いですの」

「……そうだったね、ごめん。僕が悪かったよ」

 ルキウスはバツの悪そうな顔をしながらも、流れるような仕草で、私の指先に口づける。

「枯れずとも側に置いてもらえるように、もっと頑張るね。愛してるよ、麗しきマリエッタ」

「~~~~っ!」

 そうではなくて!!
 婚約破棄をしてほしいのだけれど!?

(なんか余計にやる気ださせてしまったような……!?)

 勝者、ルキウス。
 次よ、次っ!!!!

***

「ルキウス様、あのお店にも行きましょう!」

 場所は王都。この国で一番に華やかな通りで、私はルキウスと買い物に勤しんでいる。
 そう。楽しんでいる、のではなく、勤しんでいる。
 なぜならこれももちろん、「ルキウスに嫌われて婚約破棄作戦!」の真っ最中だから。

「あ、ルキウス様。あちらのお店も素敵ですわ! 行きましょう!」

 ぐいぐいと腕をひいて催促する私に、ルキウスが「そんなに急がなくとも、店は逃げないよ」と肩を竦める。
 よしよし、これはなかなかの好感触……!

 それもそのはず、だってルキウスは元々のんびりを好む性格で、私と出かける時も、歩く速度から内容まで、どれをとってもゆったりとしていた。

 だからこそ今日は王都について馬車を降りるやいなや、私はくるくると場所を変え店を変え。
 とにかく、自分でも目が回りそうなほどに忙しなく動き回っている。

「やっぱり隣のお店も気になりますわ。覗いてみましょう!」

(どう!? こんなに慌ただしいんじゃ、私といても疲れるだけでしょう!?)

 疲労を訴えてくる両足を必死に動かしながら、私は胸中で「今日こそは婚約破棄よ!」と勝利を確信する。
 だって私は今、ルキウスをあれそれと連れ回している以上に、とんでもない悪事を働いているのだもの。