指先にくっと力を込め、ルキウスが私の頬を固定し瞳を覗き込んでくる。

「忠告はしたよ。本当に、本当にいいんだね? 後悔は、しない?」

「ええ。どうか手放さないでくださいませ、ルキウス様。たとえこの身が聖女様の依り代となろうと、たとえこの心が、絶望に堕ちゆこうと。私の核には、必ずやルキウス様への想いが息づいておりますわ。ですから、どうか」

「約束するよ、マリエッタ。僕はいつだって、必ず、キミの真の愛を信じ続ける。絶対に、放してなんてあげないから。……愛してる、愛してるんだ、マリエッタ。かっこよくなれない、キミを求めずにはいられない僕を、どうか、許して」

(ああ、なんて)

 なんて、甘美な懺悔なのだろう。
 求めずにはいられない。その一言が、私をどれだけ歓喜に染め上げているのか、ルキウスはちっともわかっていない。

(けれど、それもきっと、今だけ)

 これから重ねていく時間の中で、敏いルキウスならばすぐに気が付いてしまうだろうから。
 だから、今は。

「私を愛してくださって、ありがとうございます。ルキウス様」

「!」

 愛おしさと、感謝を込めて微笑んだはずなのに。
 ルキウスはいつものように笑みを返してくれるどころか、勢いよく俯いてしまった。

「ル、ルキウス様……?」

 戸惑いに名を呼ぶ私に、彼は「あー」とか「うーん」とか、呻くような返答しかしてくれず。
 それから「……うん」となにやら納得したような声がしたかと思うと、

「ねえ、マリエッタ」

「は、はい」

「マリエッタは僕を愛してくれている、僕は言うまでもなく、キミを愛している。つまるところ僕らは晴れて互いに想い合う、誰もが羨む仲睦まじい婚約者になったわけだけだよね?」

「誰もが羨むは言い過ぎかと存じますが、その他については同意いたしますわ」

「うんうん、ってことはさ」

 するり、と。右頬に触れていたはずのルキウスの手が、私の背……というより腰の辺りに伸ばされた。
 思わずびくりと肩を跳ね上げた私の唇を、残された掌の親指がつうと甘くなぞる。

「触れてもいい? マリエッタ」

 この、"触れる"の言葉に込められた意図に気づけないほど、私は子供じゃない。
 眼前にはねだるような、甘えるような表情でお伺いをたてる愛しい婚約者。

(こんなの、ずるい)