どう!?
 欲張って人のモノを欲しがるだなんて、なんとも強欲ではしたないでしょう!?
 おまけにこれはルキウスの大好物。嫌がったって、首を縦に振るまでねだり続けてみせるんだから!

 刹那、「はい」と眼前に皿が置かれた。
 へ? と思わず間抜けな声を出しながらルキウスを見遣ると、ルキウスは「あれ?」と不思議そうに小首を傾げ、

「これ、欲しいんだよね? どうぞ」

「で、でも、これはルキウス様の大好物では……!」

「知っててくれたんだ? 嬉しいな」

「当然ですわ! いったい何年一緒にお茶をしているか……って、そうではなく! なぜ、こんなあっさりとお譲りに……!」

「え? だって、マリエッタが美味しそうに食べている姿を見ている方が、何倍も好きだもの」

「!」

 にっこりと微笑むルキウスに、私は恥ずかしいやら悔しいやらで感情がぐちゃぐちゃで。
 あうあうと口を開閉させるだけのに私に、ルキウスは優しく瞳を緩めて、

「マリエッタよりも大切なモノなんてないもの。マリエッタが欲しがるのなら、なんでもあげるよ。それが僕の大好物でも、僕自身でもね」

「な、な、な~~~~っ!!!!」

「僕ってけっこう万能だし、貰っておいて損はないと思うけどなあ」

 違う、違う、違う……! 私はルキウスに嫌われたかったの!!
 なのにどうして、ルキウスはなんだか嬉しそうだし、甘い空気になってるの!!?

(お、落ち着くのよマリエッタ……! こういった時のために"アレ"を急いで用意したんじゃない!)

「そ、それよりもですわルキウス様、お気づきになりまして? 以前、贈って頂きましたあの薔薇が、ここには飾られていないことに」

「ん? うん、今日はないなあって思ったけど、あれはマリエッタに贈ったものだからね。好きにしてくれて構わないよ」

「ええ。ルキウス様ならきっと、そうおっしゃってくださると思いましたわ」

 ミラーナ、と呼ぶと、私の意図を汲んだ彼女が「はい、お嬢様」とトレイを手に歩を進めてくる。
 机上に置かれたそれをみて、ルキウスが「これは……」と目を見開いた。

(ええ、ええ、驚くわよね……!)

 だってトレイに乗っているのは、紛れもなくルキウスに贈られた薔薇。
 けれどその姿はみずみずしさを失っていて、鮮やかだったローズピンクの花弁はからりとした土色になっている。