ぽかんとした表情で繰り返したルキウスは、即座にはっと気が付いたようにして、
「心配ないよ、マリエッタ。今回の婚約破棄は、僕の我儘による一存だってちゃんと記録するから。マリエッタは横暴な僕に振り回されただけ。だから社交界での評判も落ちることはないと――」
「違いますわ! 私の評判を危惧しているのではなく、私が、私の心が、ルキウス様との婚約を破棄したくはないと申し上げているのです!」
「マリエッタの、心が……?」
「ルキウス様。私と交わした約束を覚えておいでですか? お伝えしたいことがあると」
「う、うん。もちろん、覚えているけれど……。早く婚約破棄を、って話じゃないの? そうでないと、せっかくアベル殿下の婚約者決めのお茶会に来ているのに、堂々とアピールできないから……」
「お慕いしておりますわ」
「そう、お慕い……え?」
ルキウスの両目が、初めて見るほどに開かれる。
けれども即座に苦笑に変え、
「あ……うん。アベル殿下を、ってことだよね。もちろん、わかっているよ。だから僕との婚約を――」
「ルキウス様を、お慕いしております」
「…………マリエッタ、いま、なんて」
とにかく、必死だった。
両手を伸ばす。包み込むようにして触れたルキウスの頬は、思っていたよりも、冷たくて硬い。
薄く息をのみこんだ、触れたことのない唇。
驚愕に染められた瞳を、覗き込むようにして見つめる。
「私は、ルキウス様をお慕いしております。他の誰でもなく、ルキウス様を。一番に、愛しておりますわ」
「ぼ、くを……?」
信じられない、けれど、信じたい。
そう、葛藤を如実に現す瞳を、私は見つめ続ける。
どうか伝わってほしい、どうか、許してほしいと祈って。
「アベル様のことは、本当に、"運命"だと感じましたの。それは、紛れもない事実。今になって違ったなどと、否定したくはありませんわ。私は確かに恋を自覚して、ルキウス様との婚約を破棄したかったのです。……ですが」
罪悪感に、視線が下がる。
「心配ないよ、マリエッタ。今回の婚約破棄は、僕の我儘による一存だってちゃんと記録するから。マリエッタは横暴な僕に振り回されただけ。だから社交界での評判も落ちることはないと――」
「違いますわ! 私の評判を危惧しているのではなく、私が、私の心が、ルキウス様との婚約を破棄したくはないと申し上げているのです!」
「マリエッタの、心が……?」
「ルキウス様。私と交わした約束を覚えておいでですか? お伝えしたいことがあると」
「う、うん。もちろん、覚えているけれど……。早く婚約破棄を、って話じゃないの? そうでないと、せっかくアベル殿下の婚約者決めのお茶会に来ているのに、堂々とアピールできないから……」
「お慕いしておりますわ」
「そう、お慕い……え?」
ルキウスの両目が、初めて見るほどに開かれる。
けれども即座に苦笑に変え、
「あ……うん。アベル殿下を、ってことだよね。もちろん、わかっているよ。だから僕との婚約を――」
「ルキウス様を、お慕いしております」
「…………マリエッタ、いま、なんて」
とにかく、必死だった。
両手を伸ばす。包み込むようにして触れたルキウスの頬は、思っていたよりも、冷たくて硬い。
薄く息をのみこんだ、触れたことのない唇。
驚愕に染められた瞳を、覗き込むようにして見つめる。
「私は、ルキウス様をお慕いしております。他の誰でもなく、ルキウス様を。一番に、愛しておりますわ」
「ぼ、くを……?」
信じられない、けれど、信じたい。
そう、葛藤を如実に現す瞳を、私は見つめ続ける。
どうか伝わってほしい、どうか、許してほしいと祈って。
「アベル様のことは、本当に、"運命"だと感じましたの。それは、紛れもない事実。今になって違ったなどと、否定したくはありませんわ。私は確かに恋を自覚して、ルキウス様との婚約を破棄したかったのです。……ですが」
罪悪感に、視線が下がる。