「マリエッタ、キミに責任などなにひとつないよ。すべては"運命"が、キミの"人柱"化と破滅を望んだが故に起きた"不運"だったんだ。僕が一度命を落としたのだって、僕が、定められていた"運命"を捻じ曲げてしまったから。僕がキミと……"運命の人"を、引き離そうとしていたから」

「ルキウス様……? いったい、なんのお話を……」

 と、ルキウスは怯えの混じった苦笑を浮かべ、

「マリエッタ。僕の罪を、聞いてくれる?」

 それからルキウスは、幼い頃に見た夢の話を始めた。
 成長した私とアベル様の婚約に、聖女への心移り。婚約破棄と、私の"人柱"化。
 そしてアベル様による討伐に……私の、破滅。
 ルキウスが私との婚約を望んだのは、そんな私の運命を、阻止するためだったと。

(そんな……それじゃあ)

 心臓の内側が、嫌な予感に冷え行く。

「ルキウス様は、私を好いてくださっていたから、婚約を望んでくださったわけではなかったと……?」

 ルキウスが即座に首を振る。

「まさか。マリエッタのことは好いていたよ。だからキミを守るにはどうしたらいいかって考えて、考えて……辿り着いたのが、この婚約だった。正直な話しをするとね、はじめの頃は、その"守りたい"って感情がなにを起因としているのかがよくわかっていなかったんだ。仲の良い女の子を、悲惨な目にあわせてはいけないって責任感なのかもって。けれど、違った。僕はマリエッタのことが、自分で思っていた以上に、大好きだったんだ。"仲が良い女の子"だからじゃない。マリエッタという存在が大切で、愛おしくて……誰にも、渡したくなかった」

 ルキウスは愛を囁くというよりも、懺悔に似た口調で「けど」と言う。

「僕は真実などわからない"夢"を口実にして、ただ、自分の欲望にマリエッタを縛り付けてしまった。キミの優しさにつけこんで、愛を盾に卑怯な真似をした。……許されることじゃない。ごめんね、マリエッタ」

「そんな……っ、ルキウス様は、私のためを思ってくださって……!」

「ありがとう、マリエッタ。キミのそうした慈悲深さも、僕は大好きだったよ。だから……今からでも、埋め合わせをさせてほしいんだ」