「なに……!?」

「――そう。そういうワケだったんだ」

 静かに呟いたのはルキウス。彼はじっと、感情の読めない顔でミズキ様を見つめ、

「ミズキと出会ったのは十の歳を迎える前だったのに、その容姿はあの頃から変わらない。歳を、取っているようには見えなかったんだ、ずっと。僕の違和感に違いはなかったんだね」

「おや、気になっていたのかい? そんな素振り、一度だって見せやしなかったじゃないか」

「別に、年をとっていようがとっていまいが、ミズキはミズキだから。それに、"年齢は秘密"だといっていたから、触れられたくないんだろうなって」

 途端、ミズキ様が面食らったように目を丸めた。
 それから仕方なさそうな苦笑を浮かべ、

「まったく、お前さんは相変わらず、妙なところで律儀だねえ」

 ともかく、と。ミズキ様は視線をアベル様に移し、

「信じろというほうが酷なのはわかっているさ。なんたって、にわかには信じがたい話だし、証明する術もないからねえ。ご判断は、アベル様ご自身でいかようにも。ってことで、そろそろね」

 ぱっと笑みを咲かせたミズキ様が、アベル様へと歩を進め、その背を押す。

「なにを……!」

「私に聞きたいことはまだあるだろう? 私もね、あの時の赤子とこんなにも言葉が交わせるなんて、嬉しくてたまらないのさ。続きは部屋を移してからにしようじゃないか。なんたって、ねえ?」

 ミズキ様はにやりと私達を流し見て、

「二人は婚約者同士なんだ。積もる話もあるだろうからねえ。いい加減、気を利かせてやらないと。そんじゃあ、お二人さん」

 ごゆっくり、と。
 半ば強制的に、ミズキ様がアベル様を連れて部屋から出ていく。

(積もる話って……)

 そりゃ、ルキウスに話したいことは色々とあるけれど。

(でも、こんな急に……!)

 戸惑っているのはルキウスも一緒なのだろう。
 シン、と静まり返った空気がなんとも気まずい。

(ど、どうしよう、ともかく何か話を……!)

「あ、あの、ルキウス様。私、お紅茶のおかわりをお持ちして……」

「マリエッタ」

「!」

 そっと握られた掌に、思わず息を詰める。
 跳ねるようにして隣のルキウスを見遣ると、彼はしなやかな眉をへりょりと下げ、