「さて、側室となった少女だけれどね。ルザミナとはとても良い関係を築いていたようだよ。ルザミナも彼女を大切にしていたし、少女もまた、ルザミナを深く慕っていた。少女と王との間に生まれた子も、ルザミナは共に育んでいたようだし。そしてルザミナはね、少女……いや、その頃には淑女か。ともかく彼女に、打ち明けられたんだ。本当は、彼女にも深く愛した男性がいたということを。けれども王からの求婚により、彼と結んでいた婚姻の約束は、叶わない夢となってしまったのだということを」

「そんな……っ」

 絶句する私に、

「それもまた、王は知らぬ"真実"というものか」

 苦虫を嚙み潰したような顔で、アベル様が続ける。
 ミズキ様はただ穏やかに「どうだろうね」と返し、

「知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない。どちらにせよ、自分が求婚をするということがどういうことか。それは、理解していたんじゃないかと思うけれどね。"王"としての権力を利用しても、少女が欲しかった。それがきっと――彼にとっての"真実の愛"だったんだろうよ」

「確認したいのだが」

 アベル様の緊張をはらんだ低い声に、全員の目が向く。

「なぜ、そのような重要な品を持っている。全てを信じたわけではないが、王室の書物に記載のない事情も詳細に知り得ているなんて……いったい、何者だ」

「なあに、そんなに警戒するような理由ではないさ」

 ミズキ様はしゃらりとカンザシを揺らす。

「言ったろう、王には知られたくはなかったって。彼女はね、新たな聖女の誕生と同時に、そのブレスレットの存在を隠すことにしたのさ。考えた彼女は、信頼ある相手にそれを託すことにした。そして選んだのは、かつての恋人だったある男。風変りで、"運命"を見ることが出来ると噂される……私の、師匠だった人さ」

「! ミズキ様の、お師匠様……!?」

「嘘は許さん」

 即座に発したアベル様は、鋭く目尻を吊り上げ、

「初代王の統治時代は数百年も前の話だ。貴様の師匠がブレスレットを直接受け取ったとしたのなら、どうしたって計算が合わない」

「おっしゃる通りさ、アベル様。けれどもね、誓って嘘ではないのだよ。なぜなら私は東国で"魔女"と呼ばれる存在の血を引いた、長命な一族のひとりだからね」