「ミズキ様、真実ではないとはいったい……?」

 再び私達に向いた目が、どこか、寂しさを帯びる。

「まったくの嘘だという話ではないけれどね。二人が王位について、数年が経った頃だ。王はね、出会ってしまったのさ。運命の――"真実の恋"に」

「っ!?」

 ――真実の恋。
 私が、アベル様に感じた。言葉では説明しがたい、ただただ"そう"なのだと直感するような、胸の高鳴り。
 覚えのある言葉に戸惑っていると、ミズキ様はそんな私を落ち着かせるようにして柔らかく笑み、

「王はその少女を、側室として迎え入れた。本音は正室にしたがっていたようだけれどね。聖女であり国民の支持も高いルザミナを王妃の座から退かせるには、問題が多いと判断したようだよ。王も王で、なにもルザミナを嫌っていたわけではないからね。彼女を好いて、大事にしていた。ただ、愛せはしなかった。仲間とか、家族とか。ルザミナに抱いた感情は、そういった類の"愛"だった」

「おかしい」

 発したのは、アベル様。眉間に怒りと焦燥を滲ませ、

「王室の書物には、王が側室を迎えたのはルザミナ様とは子がなし得なかったからだとされている。ルザミナ様も、了承の上だと」

「間違ってはいないよ。ただ、子がなし得なかったのは、子を成そうとしなかったってだけさ。それにルザミナは、確かに王の一連の説明に納得した上で、承諾している。ひどく心を痛めていたようだけれどね。けれど彼女は、気丈に隠し通した。王への愛をね。王はきっと最後の最後まで、ルザミナの"愛"も自分のそれと同じなのだと信じていただろうよ」

「あり得ない……! そのような話、どこにも……!」

「それはそうだろうね。だってこの真実を記さないようにと指示したのは、ルザミナ本人なのだから」

「ルザミナ様が、ご自身で……?」

 ミズキ様は「そう」と私に頷き、

「言ったろう? ルザミナは王を愛していたんだ。例え求めた"愛"が、自分に向かずともね。だから聡明な彼女は、後に王にとって不都合となりそうな"真実"は排除することにした。書物に嘘はない。ただ、真実だけは記されていない。それだけさ」

「そんな……そのようなことが……」

 苦悶の声を漏らすアベル様に、ミズキ様は語り続ける。