子供のように泣きじゃくる私の後頭部を、優しい手が往復する。

「死後の世界っていうのは、随分と幸せな夢を見せてくれる所だね」

「夢、ではありませんわ。当然、死後でも」

「……マリエッタ。キミは僕の夢じゃなくて、本物、マリエッタなの?」

「ええ、そうですわ。ほら、ちゃんと、温かいでしょう?」

 ルキウスの手をとって、自身の頬に引き寄せる。
 と、ルキウスは瞠目して息を詰めた。それから緊張の糸が解けたようにして、顔を綻ばせると、

「……本当だ。僕の愛しい、マリエッタだ」

「……愛おしいと思ってくださるのなら、私の許可なく一方的にさよならだなんて勝手は謹んでくださいませ」

「……ごめんね、マリエッタ。引き戻してくれて、ありがとう」

 謝るべきは、ルキウスじゃない。私なのに。
 安堵とか、怒りとか、愛しさとか。色んな感情がごちゃごちゃに絡まってしまって、ただ、手の内のぬくもりを確かめながら涙を流すしか出来ない。
 けれど。

「っ、いけませんわ私ったら……! ルキウス様、今すぐに看治隊の方を呼んでまいります。怪我の治療と浄化を……!」

「その必要は、ないみたい」

「え?」

 上体を起こしたルキウスが、先ほど貫かれた胸の、破けた服を開いてみせる。と――。

「傷が、治って――っ」

「ここだけじゃない。たぶん、僕の身体にあった全ての傷が治っている。それに、この感覚はおそらくだけど……浄化も、されている」

「浄化も!?」

「――聖女」

 アベル様が、呆然と呟いた。

「間違いない。同じだ、聖女だった母上と。驚異的な治癒と浄化を可能とした魔力。それにあの光は……マリエッタ嬢、やはりキミが聖女で――」

「それは違うよ」

 遮ったミズキ様の声に、皆の視線が集中する。

「エストランテ」

「……え?」

「歌に祈りを込め、聖女の加護を司る歌姫。それが、本来の"エストランテ"でね」

 ミズキ様の小首を傾げる仕草に合わせ、カンザシがしゃらりと鳴った。

「マリエッタ様。お前さんが聖女の祝福を受けた、真の意味での"エストランテ"ってことだよ」

「私が、真のエストランテ……!?」