「ルキウス様が助からなかったその時は、私を、処分してくださいませ」

「マリエッタ嬢、なにを……!」

「ミズキ様。歌を、うたえばよろしいのですね」

「マリエッタ嬢!」

 私の眼差しを受けて、ミズキ様が頷く。
 それに応えるようにして頷き返し、視線を横たわるルキウスに移した。
 硬く閉じられた瞼と、赤みを失っていく唇。
 再びこみ上げてきた涙を飲み込むようにして目を閉じた私は、両手を組み合わせ、すうと息を吸った。

 歌うのは、祈りの歌。
 ブレスレットの白い石が、手首で揺れる感覚。

「――」

(お願い、どうか。どうか、ルキウスを助けて)

 彼の静かな心臓が、再び役目を果たしてくれるのなら。
 優しい唇が、音を紡いでくれるのなら。
 美しい黄金の瞳が、私を見つめてくれるのなら。

 私の命で足りるのなら、いくらでも捧げてみせる。
 だから、どうか、どうか、どうか。

(死なないで……!)

 その時だった。
 心臓の奥底がぐわりと煮え立ったかと思うと、ブレスレットの白石が、強烈な光を放った。

「マリエッタ嬢!?」

 驚愕に名を呼ぶアベル様の声と、「ああ、やっぱり」と歓喜を滲ませたミズキ様の声。
 私はそのどちらにも反応することなく、歌を紡ぎ続ける。止めてはならないと、本能的に感じていたから。

(魔力が、溢れてくる)

 私のものとは違う、知らない魔力。
 けれど先ほどのような、暗く重いものではない。
 もっと強くて、柔らかで。それでいて、光溢れるような。

(この魔力なら、もしかして……!)

 私はそっと、ルキウスに触れた。刹那、光がルキウスを包み込み、一層の光を帯びた。
 光が止む。それとほぼ時を同じくして、ピクリと動いたルキウスの指先。

(――まさか)

 思わず歌を飲み込んだ私は、震える手で、その指先に触れた。
 ……あたたか、い。

「ル、キウス……様?」

 ふるりと薄く動いた睫毛が、ゆったりと、持ちあがる。

「……ど、して、泣いているの? マリエッタ。キミを悲しませるものは、僕が、斬ってあげるよ」

「!! ルキウスさまっ!!!!」

 衝動のまま、ルキウスの首元へと抱き着いた。

「ルキウスさま、ルキウスさま……っ!」

 ああ、本当に。本当に、ルキウスだ……!