「あんなあ、ロザリー。だーい好きなマリエッタ様がこんな目にあってるのも、お前がちゃーんと計画をこなさないからだかんな?」

 ぐっと首に回る腕に力を込められ、思わず呻くような声が漏れる。
 ロザリーはますます顔色を悪くして、

「私は、ちゃんと計画通りに……!」

「出来てねえだろ。ったく、見事エストランテ様に輝いたお前の努力に敬意を表して、仕方なく王のいねえ今日にしてやったのによ。標的のアベル王子はピンピンしてやがるじゃねえか。今回の襲撃ではクソ王の大事なモンを叩き壊して、同じ屈辱を味合わせてやる予定だったろ」

「それは……! っ、私は出来る限りの紫焔獣は放った。足りないのなら、ノックスだって紫焔獣を放てばよかったでしょ!」

「オレは今回、お前たちを全員脱出させるための"切り札"だったろ。案の定、こんな所で足止めくらってるじゃねえか。おら、さっさと出っぞ。間に合わなくなる」

「――させ、ないよ」

 ザシュッと紫焔獣を薙ぎ払ったルキウスが、ぜえはあと肩を上下させながら切っ先をこちらに向ける。
 身体はもう、限界に違いのだろう。
 初めて見る震える膝に「ルキウス様……!」と悲痛な声を漏らすと、

「……まあ、バケモンみたいな"黒騎士様"を早いうちに潰せたのはデカいか」

 ぽつりと呟いたのは、ノックスと呼ばれた男。
 彼は「ロザリー!」と声を上げ、

「前言撤回してやる! 今回は"本命"に向けて国力を削いだってことにしておこうぜ。そんじゃ――帰る、ぞ!」

「!」

 勢いよく突き飛ばされ、地面に身体を打ち付けた。

「マリエッタ!」

「マリエッタ様っ!」

 声に、顔を上げた刹那。

「……ひっ!」

 視界に入ったのは、大口を開け、迫ってくる二体の紫焔獣。

(――逃げられないっ!!)

 咄嗟に両腕を上げ、眼前を覆った。次の瞬間。
 ザンッ! と轟いた斬撃音に、ドスリと鈍い音が重なる。そして。

「ほい、いっちょ上がりってな」

「……え?」

 妙に楽し気なノックスの近い声に、おそるおそる目を開ける。
 視界に飛び込んできたのは、私を庇うようにして立つルキウス。
 紫焔獣を斬りはらってくれたのだろう。剣は振り切った腕の先にある。
 けど。けれど。