ぺこりと簡易的に頭を下げ、彼に背を向けた刹那。

「おっと、行かせないぜ」

「なっ!?」

 強い力で手首が掴まれ、背後ろから首を抑えるようにして身体が拘束されてしまう。

「なにを……!」

「まだ"人柱"に気づいてねえようなら見逃してやれたのにな。まあ、大人しくしてくれてりゃ、痛いことはしないぜ。オレは紳士なんだ」

「あなた、いったい……っ!」

「マリエッタ!!」

 私達に気づいたルキウスが、血相を変えてこちらへ向かってこようとした。
 けれど、

「アンタはそっちだろ」

 男の声に合わせ、新たに湧き出た数体の紫焔獣。
 ――まさか。

「あなたも"人柱"ですのね……!」

「ご名答。にしても悲鳴をあげるよりも睨みつけてくるなんて、気丈なお嬢サマだな」

 ぶわりと彼の周囲に現れる、黒紫の魔力。
 時をほぼ同じくして、紫焔獣がルキウスを襲う。

「ルキウス様!」

「――ノックス!」

 声は、ロザリーのものだった。
 酷く驚き焦った様子で、

「マリエッタ様をお放しして……!」

「やっぱりな。コイツが"マリエッタ様"だったか」

「早く!」