「王の所業は、私を始めとする貴族の無知は、けして許されることではないわ。ロザリーたちの怒りも、理解できます。それでも……私はこの国にいたいの。私の大切な、愛おしい人たちを、捨てるなんて出来ない」

「それは……たとえ私と、永遠の別れとなってもですか?」

(――嫌。本当は、離れたくない)

 私のたったひとりの、大切なお友達。
 これまでも、これからも。たとえ身分の違いがあるとはいえ、私達は変わらずに、この先の未来もその名を呼び合っていけるのだと思っていたのに。

「……ごめんなさい、ロザリー」

 視界が滲む。自覚した途端、嗚咽が零れた。
 泣いたところでロザリーの決心が、知らずに守られていた私の罪が揺らぐわけではないと、わかっていても。
 溢れる涙が、止まらない。

「マリエッタ。キミはやっぱり、強いね」

 ぎゅっと肩を抱いてくれたルキウスが、私に顔を向けにっこりと笑む。

「傍にいてくれて、ありがとう」

「ルキウス様……」

 優しい慰めに、涙が途切れるのを感じた、その時。

「口惜しいです、マリエッタ様。貴方様の幸せは、私の隣だと信じておりますのに。いつかまた、お迎えに上がります。それまでしばらくは、お別れですね」

 ――さよなら。

 ロザリーが呟くと同時に、彼女を覆う黒紫の魔力がぶわりと揺れ動いた。
 刹那、歪んだ空間から次々と現れたのは。

「――紫焔獣っ!」

(本当に、ロザリーから――っ)

「ご安心ください、マリエッタ様。私の魔力から生まれた子たちですから。あなた様にだけは、けして危害を加えません」

「どうだろうね。キミがこうして紫焔獣をマリエッタの前で放ったのは、初めてでしょ? これらはキミの魔力を媒介としているだけで、キミじゃない。破壊本能に支配された、獣だよ」

 マリエッタ、と。
 ルキウスは私を庇うようにして背後ろに隠すと、

「お願いしたいのだけれど、他の隊員を呼んできてもらえるかな。かっこ悪い話なのだけれど、今の僕じゃ、紫焔獣を相手するので手一杯だと思うんだよね。彼女を、逃がしてしまう」

「! ルキウス様、またお怪我を――」

 金の瞳がちらりと私を振り返り、

「――行って、マリエッタ」