「贈る花に、ご自身の色を選ばずに、お嬢様のお色を選ばれるところがルキウス様らしいですね」

「そ、そう……なの?」

「ええ。ルキウス様はご自身が納得されたものしか、お嬢様にお贈りになりませんから。ルキウス様にとって、一番に美しく思えたお花が、お嬢様の髪の色と同じこの薔薇だったのですね」

「…………」

 言われて、飾られた薔薇をまじまじと見つめる。
 ルキウスが一番に美しいと。私の姿を重ねて選んできた、彼に贈られた薔薇。

(そ、そう思うと、なんだかちょっと恥ずかしいような)

 羞恥に熱が上がってくるのは、このルキウスの行為が、妹扱いではなく情愛のそれだと知ってしまったから。

(で、でも、私の運命のお相手はアベル様なのだもの! よそ見はいけないわ!)

 そう! これは決して浮気などではなく、思いがけない相手の突然の暴露に戸惑っているだけ……!

 トクトクと速度を上げる、胸の疼き。
 その正体に納得していると、ミラーナが優しく両目を緩めて「うーん」と頭上の手をひいた。
 思案するように顎先に指をあて、

「ルキウス様にこのご婚約を破棄して頂くには、お嬢様の言うとおり、なにか策が必要ですね。ルキウス様が大好きなお嬢様と、婚約破棄をしたくなるような……」

「……それだわ」

「お嬢様?」

 唐突にひらめいた私は、勢いよくミラーナを見上げ、

「私を大好きで婚約破棄をしてくださらないのなら、私のことを大嫌いになってもらえばいいのよ!!」

 そうよ! どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら……!
 突破口は見えた! とやる気満々な私に、ミラーナはなぜだか「そうですね」と苦笑交じりに頷いて、

「なんでもお手伝いさせていただきますので、頼ってくださいね。お嬢様」

***

 自分でいうのもなんだけれど、私は口の悪さを除けば、なかなか優秀な令嬢だと思う。
 幼少期からマナーのレッスンはもちろん、刺繍やダンスといった令嬢の嗜みは積極的に学んできたから。

 お父様の、家名に泥を塗らないためにという思いももちろんあったけれど、一番は"出来ない"自分が嫌いだったから。