「お二人は、十年前の紫焔獣防滅作戦をご存じですか?」

「紫焔獣、防滅作戦……」

 十年前。時の聖女様――アベル様のお母様が突如、原因不明の病にて床に臥せった時があった。
 聖女の加護が弱まった影響か、紫焔獣の発生が活発化し、街もあちらこちらで甚大な被害を受けた。

 それは騎士団も同じく。
 度重なる戦いの中で確実に摩耗していく状況に、国王はとうとう、国中の魔力を持つ男性を対象に徴兵を行った。
 そして紫焔獣防滅作戦として、大規模な殲滅作戦をたてた。

 結果として、紫焔獣の発生をせき止めることに成功し、再び平穏な日々を取り戻したのだと、幼心にも理解していたけれど……。

「私の父も、無理やり徴兵された一人でした。そして平民の出ということで、遊撃隊の中でも最下層の、突撃部隊に配属されたのです。……真っ先に紫焔獣へと飛び掛かり、怪我をしたところで治療も浄化も受けられない、"勇士の部隊"に」

「治療も浄化も受けられないですって……!?」

(それではまるで、死を前提にした捨て駒じゃない……!)

「そのような話、一度も……っ! ルキウスだって――」

 言葉を飲み込んだのは、ロザリーから目を離さないルキウスの横顔に、微塵の動揺もなかったから。

(――まさか)

「……ルキウスは、知っていたの?」

「……現遊撃隊の隊長は、僕だからね。過去の事象を知っておくことも、必要なんだ」

「では、本当に……っ!」

 ルキウスは眉間をぐっと寄せ、

「正確には、治療を後回しにされたんだ。聖女様の力が頼れないとあっては、治療や浄化を行う魔力には限界がある。今のようにね。だから怪我人は貴族が優先されたんだ。民も、騎士も。そうして"順番待ち"をしている間に、命を落としていった者が一番に多い隊だった」

「そんな……!」

「私の父も、勇士の部隊でした」

「!」

 ロザリーは過去を懐かしむようにして瞳を和らげ、

「穏やかで、愛に溢れ。戦いなど無縁な人でした。今でも鮮明に覚えています。徴兵のかかった朝、どうにか看治隊に配属されるよう頼み込んでくると、泣き崩れる母を宥めていた姿を。交渉の余地なく、"勇士の部隊"に配属されたと語った無念の涙を。防滅作戦の前夜、"幸せを祈っている"と私を抱きしめ、奥歯を噛んでいた、腕の強さを」