「……それは、私が"人柱"ではないからではないでしょうか」

「そ、そうですわルキウス様。ロザリーが"人柱"だなんて、そんなはず――」

「いいや、キミが"人柱"だ」

 確固たる口調でルキウスは告げ、

「紫焔獣からは魔力の波形が読み取れる。たしかにキミには淀んだ魔力の気配がないけれど、キミの魔力は、あれと同じだ。計測器がなくとも僕には分かる。違うというのなら、快く同行してもらえるかな。僕の仲間が、正確な数値を測定してくれるから」

 口調こそ穏やかだけれど、有無を言わせない圧力。
 ロザリーは黙ったまま俯いてしまったけれど、それは……そう。
 きっと、ルキウスに誤解され責め立てられているのが、怖いからで――。

「ね、ねえ、ロザリー。私と一緒にいきましょう。こんな失礼な誤解を受けたままだなんて、悔しいわ。ちゃんと計っていただいて、堂々と潔白を証明して――」

「……ありがとうございます、マリエッタ様。ですが……申し訳ありません」

「え……?」

 刹那、強い風が巻き上がった。

「きゃっ!」

 驚きに声を上げた私を覆うようにして、ルキウスが抱きしめてくれる。
 瞬きの間に、風が止んだ。途端、ルキウスがにいと口角を吊り上げ、

「やっぱり不思議でたまらないよ。それだけの淀み、いったいどうやって隠してたんだい?」

「ロ……ザリ……?」

 ルキウスの腕から顔を覗かせ、見遣った先。
 あれだけの強風だったにも関わらず、乱れひとつないロザリーを覆う、黒に近い紫の気体。
 ――淀んだ魔力の、証。

「そ……んな……」

 がくりと膝の力が抜けた私の身体を、ルキウスが咄嗟に受け止めてくれる。

「ロザリーが……"人柱"……だったの?」

(つまり、今回の紫焔獣はロザリーが……)

 身体ががくがくと震えるのを自覚しながらも、なんとか絞りだす。
 と、彼女は悲し気に眉尻を下げながら笑み、

「マリエッタ様には、後程打ち明けるつもりでした。あなた様には、嘘を残したくはありませんでしたから」

「そんな、ロザリー、どうして……っ!」

 どうして、魔力が淀んでしまったの?
 どうして、ずっと隠せていたの?
 どうして――こんな、襲撃など。

「他者からすれば、たわいのないことです」

 ロザリーは己の魔力の淀みを確かめるようにして、自身の両手を見遣る。