ルキウスの治療の後、治療できたのは十二人だった。
 魔力の回復には、一定の時間を要する。

 空っぽすれすれの限界まで放出したものだから、しばらくは使いモノにならない。

 幸いなことに、アベル様の緊急招集命令によって王都の医師が駆けつけてきてくれたから、心配は無用なはず。
 手伝ってくれたご令嬢方も、じきに治してもらえることだろう。

(それにしても、良かったわ。ご令嬢方に変な誤解をされずにすんで)

 アベル様とルキウスの騒動を、絶対に問い詰められると思っていたのだけれど。
 アベル様とは元より顔見知りなのだと説明すると、

「"堅氷《けんぴょう》の王子"だなんて聞きますけれど、あんなに心配されるなんて、とってもお優しい方でしたのね……っ!」

「ルキウス様だって、近寄りがたいお方なのだとばっかり思っていましたが、驚くほどにお優しい目をされるのですわね!」

 二人の以外な一面を見れたとはしゃぐばかりで、私への牽制は一切なかった。

(おまけに"大変でしたわね"って労いの言葉までかけてくださるなんて、皆さん、本当に素敵な方たちばかりだわ)

 次に夜会に出席した時には、もう少し違った雰囲気を楽しめるかもしれない。
 そんな期待を胸に秘めながら、私はご令嬢方に教えてもらった、避難場所のひとつである応接間へと向かった。
 ロザリーを探すために。けれど。

(……いない、わね)

 いまだ混乱の気配が色濃い応接間の中には、ロザリーの姿はない。
 避難の間に合った人達は、何か所かに別れて待機していると言っていた。
 きっとここではなく、別の部屋にいるのだろう。そう、不安に陰る自身に言い聞かせ、私の次の避難場所である食堂へと向かった。

 けれども食堂にも、ロザリーの姿はない。
 談話室も、王座の間にも。開く扉の数が増えるたびに、言い難い不安と恐怖が胸を浸食していく。

(そうだ)

 ロザリーは誰もが知る"エストランテ"。ならば……。

「あの、お尋ねしたいのですけれど」

 私は王座の間で座るご令嬢方に声をかけ、

「どなたかエストランテ様をお見掛けしてはいませんでしょうか?」

「エストランテ様……?」

「そういえば……アレが襲ってきた時、途中までは一緒にいらしていたはずですのに」

「! 途中までは一緒に逃げていらしたのですね!」