「あのね、マリエッタ」

 私の葛藤を知ってか知らずか。ルキウスが、ことさら優美に笑む。

「この騒動が落ち着いたら、話したいことがあるんだ。だから絶対、倒れちゃ駄目だよ」

「! 私も。私も、お伝えしたいことがありますの……っ」

 とんだ好機だと便乗した私に、ルキウスは「マリエッタの話なら、いつだって聞くよ」と頷いてくれる。

(これでやっと、私の気持ちをお伝えできるのね)

 安堵にこっそりと息をついてから、私はルキウスの指先をそっと握り返し、

「ルキウス様。必ずや、ご無事で」

「約束するよ。マリエッタも、気を付けて」

 温もりが離れる。寂しさを悟られないように、空いた指先は自ずから胸元に引き寄せた。
 柔く両目を細めて、ルキウスが背を向ける。
 堂々とした足取りで去っていく姿には、"黒騎士"の名に相応しい威厳が。

(大丈夫。ルキウスは、ルキウスだわ)

 指先に残った微かな黒をドレスで拭い取って、私もまた、己の戦場へと急いだ。