では! とジュニーが告げたかと思うと、あっという間に隊員達の姿が見えなくなってしまった。
 つまりは他の隊員たちも、ジュニーと同意だということ。

 ぽつんと残されたルキウスもこの状況は予想していなかったようで、珍しくあっけにとられた顔をしている。
 ちょっと、かわいい。って、今は胸をキュンとさせている場合ではない。

「……ルキウス様」

 手を差し出した私に、ルキウスが戸惑ったようにして瞳を揺らす。

「でも……」


(この期に及んで、なにをそんなに渋ってしるのかしら)

 面倒なのか、別の理由なのか。
 なんであれ、任された以上このまま向かわせるわけにはいかないし、ルキウスの隠し癖を知っている身としても、きちんと怪我の程度を把握しておきたい。
 私は呆れを胸中に押し込めながら、ぎろりとルキウスを睨み上げ、

「私に治療されるのは、お嫌ですの?」

「ちが……っ、違うんだ、マリエッタ。キミが治療してくれるというのなら、この身体に傷を負うたびに幸福を見出せるに違いないのだけれど」

「いえ、それは考えを改めてくださいませ」

「その……僕のこの手に触れては、マリエッタを汚してしまうから」

「…………ん?」

 ポツリと零された言葉に、首を傾げる。
 ルキウスは困ったように微笑んで、

「気味が悪いでしょ、紫焔獣の残滓だなんて。僕もマリエッタに触れてはほしくないもの。治療は全部が終わってから、看治隊の人間から受けるよ。だから今はこのままで――」

「ル・キ・ウ・ス・様」

 強い物言いになってしまった自覚はある。
 けれど、仕方ないだろう。
 私はにっこりと微笑みルキウスとの距離を詰め、その手をむりやり掴み取る。

「見くびらないでくださいませ」

「っ、マリエッ――」

「汚れなど、拭けば落ちますわ」

 触れた掌から流し込むようして、じんわりと魔力を這わせていく。

「どんなに黒かろうと、ルキウス様の手ですもの。気味が悪いなど、ありえませんわ」