促すようにして再び視線を向けてきた騎士団長様に、アベル様はぐっと口端を引き結ぶと、

「わかった、行こう」

「恐れ入ります。こちらに」

 騎士団長様が歩き出した瞬間、アベル様は視線だけを私に向けて、

「マリエッタ嬢の意志は理解した。だがやはり俺は、キミが傷つく姿を見たくはない。それだけは覚えていてくれ」

「……お心遣いいただき、ありがとうございます。けしてこの身を危険にさらすことはないと、お約束いたしますわ」

 スカートを摘まみ上げ、膝を軽く折る。
 アベル様が不服を断ち切る様にして「くっ」と喉を鳴らし、

「行くぞ」

「はっ! 恐れ入ります」

 騎士団長様を連れ立ち、部屋を後にするアベル様。
 その背が完全に見えなくなったところで、

「それじゃ、僕たちも行こうか」

 聞こえたのはルキウスの声。
 私ははっと気が付いて、

「お待ちください、ルキウス様。お怪我があるのなら見せてくださいませ。もちろん、皆様も――」

「ああ、大丈夫だよマリエッタ。ここにいるのは、動ける隊員だけだから」

 つまりは"軽傷"という意味なのだろう。
 と、すかさずジュニーが、

「いえ、マリエッタ様。隊長だけちょっと診てもらってもいいですかー?」

「僕? 必要ないよ。それよりも外に……」

「ダメです、逃がしませんよ。ちゃんとマリエッタ様にご判断いただいてくださいー!」

 扉へ向かおうとするルキウスを引き留めるようにして、ジュニーはルキウスの隊服をむんずと掴む。
 それから私に視線を向けて、

「隊長はいっつもオレ達のことは正確に判断するくせに、自分の傷には興味がなさすぎるんですー。仕事が終わってからまとめて診てもらえばいいとか言って! 今回は特に本気で隊長に抜けられるときついんで、がっつりきっちり働いてもらうためにも隊長には万全を期してもらわないとー」

「僕ならまだ全然元気だよ?」

「だから、隊長の基準が信用ならないって言ってんですう!」

(ルキウスったら、騎士団に入ってからも相変わらずなのね……)

 年を重ねるごとに私が治療する機会は減っていったものだから、てっきり"治療嫌い"は改善されたのかと思っていたけれど。

「ともかく、マリエッタ様! 隊長をお願いしますー! オレらは先に行ってますので!」