運ばれてきたのは騎士団の隊服をまとった、新たな負傷者。どうやら紫焔獣との闘いは、まだ決着がついていないよう。

 治しても治しても後が絶たない現状に、私はというと、傷の全快ではなく自然治癒を期待できる範囲までの治療を指示されていた。
 ひとりでも多くの負傷者を救うために。

「マリエッタ様、そろそろ一度お休みをされたほうがよろしいのでは?」

 おずおずと訪ねてくるご令嬢の顔には、多分の心配。私は「いえ、まだ平気ですわ」と笑んで、次の患者の治療にあたる。
 これまで運ばれてきた負傷者の中に、ルキウスの姿は、ない。アベル様も。
 つまりまだ、必死に戦ってくれているのだろう。それに。

(ロザリー……きっと、無事なのよね)

 怪我なく避難が間に合った人は、別の部屋にいるのだとご令嬢方に聞いた。
 このホールにはいないようだから、つまりはそちらにいるのだと思う。
 出来ることならば、ちゃんとこの目で無事を確かめたい。そのためにも、まずはここの負傷者たちを早く安心できる状態にして――。

「アベル様っ!」

 誰かのざわめきに振り返ると、開け放った扉からアベル様が歩を進めてきた。
 やはり彼も戦闘に加わっていたのだろう。出て行った時とに比べ、衣服も明らかに消耗している。

「国内の医師に緊急招集をかけている。迎えも出しているから、まもなく到着し始めるだろう。医療物資もだ」

 早口で看治隊の人へ告げ、止めていた足を動かし始める。
 刹那、ばちりと目が合った。途端に険しくなった眉間に、戸惑う。

(え? 私、なにか間違えてしまったかしら?)

 大股で近づいて来るアベル様に、患者への治癒魔法を施しながらあたふたと戸惑っていると、

「マリエッタ嬢……っ」

 患者に向けていた掌が掴まれ、苦々しく眉根を寄せたアベル様の顔が近づく。

「アベルさまっ」

「まだ治療を続けていたのか。まさか、俺が出て行ったあと一度も休まずだなんてことは……!」

「い、いえ、ちゃんとお休みさせていただいておりますわ。それに、皆さまにも気遣って頂いておりますし――」

「駄目だ」

「きゃっ……!」

 思わず声を上げてしまったのは、アベル様に横抱きで身体を抱えあげられたから。

「アベル様!?」