すっと現れたご令嬢が、治癒の終わった彼女の手をとって先導し始める。
 突然のことにあっけにとられていると、今度は別のご令嬢が、

「マリエッタ様、お水をいただいてきましたわ。お飲みになってくださいまし」

「あ、ありがとうございます……」

 反射的に受け取り、期待の眼差しをに負けカップに口をつけた。
 どうやら自分でも気が付ないうちに、随分と喉が渇いていたよう。
 冷たいそれがごくりごくりと喉を通るたびに、じんわりと身体に沁みわたっていく感覚。

 ありがとうございました、とカップから口を離そうとした刹那、

「マリエッタ様! お椅子をいただいて参りましたわ! こちらに」

「汗がひどいのでお拭きさせていただきますわね! お水ももう一杯おもちしますか?」

「え? え?」

 集まってきたのは皆、軽傷だからと後回しにされているご令嬢方。
 あれよあれよと椅子に座らされ、汗を拭かれとされるがままに。疲労からかいまいち理解の追いついていない私は、

「あと、ありがとうございます、皆様。ですがその、大変申し訳ないのですが、今はまだ怪我の深い方を優先に――」

「あら、嫌ですわマリエッタ様。私達、なにも先に治療をしていただきたくて動いているのではありませんのよ?」

「え?」

 すっと。一人が頭を下げたのに倣うようにして、ご令嬢方が頭を下げる。

「お詫びさせてくださいませ、マリエッタ様。私達、ずっとあなたを誤解しておりましたの」

「誤解、ですか……?」

「ええ。侯爵家であることをいいことに、幼少期からルキウス様を振舞わしている、高慢なご令嬢なのだと」

「な……っ!?」

 いったいどこで!? そんな話が!?

(あ、でもルキウスを振り回しているのは間違っていないけれど……。ううん、お父様が侯爵だったから、幼い頃からルキウスと交流があったというのも事実だし……)

 自覚のある口の悪さは、高慢ととられてもおかしくはない性質のものだし……。

(あ、あれ? 誤解どころか反論の余地がないような……)