それが単に面倒だからなのか、医者にかかりたくない理由があるのかはわからなかったけれど……。

「ルキウス様、それなら私の実験台になってくださいませ」

 爺やに頼み、こっそりと治癒魔法による治療を学んでいた私の"お願い"。
 ルキウスは「そういうことなら、喜んで」と、私の治療だけは受け続けてくれていた。

(あの時はルキウスが心配なのもあったけれど、彼の"婚約者"として、周囲を納得させれるだけの"なにか"がほしかったのよね)

 成長を重ねるたびに才能を開花させ、周囲の賞賛を集めていくルキウス。
 そんな彼に、追いていかれないように。"幼馴染"として、負けたくはないと必死で。

(ううん、それだけじゃない)

 なによりも、"どうしてあんな子を"と。
 私の不甲斐なさが理由でルキウスが責められるのだけは、嫌だった。

(ルキウスだって戦っているのだもの。私だって)

 私は決意にアベル様を見上げ、

「傷の治療は、初めてではありませんわ。女とはいえ、私もこの国の貴族の一員。有事には戦う覚悟は出来ております。ですから、アベル様」

 ご許可を、と。繰り返した私に、アベル様が苦々しく眉間を寄せる。
 けれども重い口を開き、

「……わかった」

「! ありがとうございます、アベル様!」

「だが、約束してくれ。決して無理はしないよう、少しでも辛いと思たその時は、必ず、王座の間へ向かうと。……キミに、治療義務はない」

 私の肩に触れる掌は、優しくも力強い。

(本当に、お優しい方ね)

 私はしっかりと頷き、

「必ず、お約束いたしますわ。……アベル様もどうか、お気をつけて」

「ああ。……今の話、この場の隊員に周知しておいてくれ。マリエッタ嬢。また、必ず戻ってくる」

 名残惜しさを振り切るようにして、背を向けたアベル様が足早に去っていく。

(私も、出来ることをやらなきゃ)

「私も中へ」

 頷いた隊員さんと共にダンスホールに踏み入れる。
 彼は手早く私の参加を周知すると、私へと頭を下げ、