ミラーナは羞恥に悶える私を微笑まし気に眺めながら、

「そういうわけでして、本日のティーフードはお嬢様の大好物。"たっぷりチーズのケーキ、ベリーソース添え"ですよ。料理長からの応援だそうです」

「りょ、料理長まで~~~~っ!」

 ハートを描くソースの中央に、いい顔でサムズアップしてみせる料理長の顔が浮かぶ。

「なんなの……! なんなのよ皆して……っ! 私はもう子供じゃないのよ!? こんな、こんな……!」

「あら、でしたらそちらはお下げしますか?」

「食べるわよ!」

 即座にお皿を守ってしまった私に、ミラーナは「料理長も喜びますよ」と楽しそうに笑む。

「お嬢様はおいくつになられても、私達のお嬢様ですから。皆、可愛くて仕方ないのですよ」

「それは……わかっているわよ。この家には、私しか子供がいなかったのですもの」

(あ、しまった)

 わかっている。皆、ただ優しいだけで、そんなつもりはないのだと。
 またやってしまった、と思わず口を噤み、視線を落とす。
 と、ミラーナがそっと私の手をとり、視線を合わせ、

「ええ。ですから、お嬢様が私達の愛をぜーんぶ受け止めて下さらなければ。たった一人の大切なお嬢様であらせられるマリエッタ様を、皆、もっと甘やかしたいのです。ですので、たくさん我儘を言ってくださっていいのですよ」

「っ、ミラーナ……」

「さあ、お紅茶が冷めてしまいます。温かいうちにお召し上がりください」

 微笑んで立ち上がるミラーナに、私はなんとか「……ありがとう」と絞り出す。
 思うに、どう頑張っても口の悪さが直らない私が自分を嫌いにならずにいれたのは、ミラーナをはじめとする当家の皆が優しかったから。

 そして、ルキウスが。
 こんな私にいつだって優しく笑んでくれて、大切に大切に、私の名前を呼び続けてくれたから。

 感謝はしている。大切な存在でもある。
 けれど、違うのだ。恋の……アベル様を想うと感じる胸の高鳴りは、ルキウスには生じない。