思わず身体が震える。
 発生源が"人柱"ならば、沼地のように即座に浄化すれば終わる話ではない。

 相手は人の心。うまく宥められればいいけれど、失敗すれば、その発生源を力づくで"断ち切る"必要が――。

「ジュニー。いくよ」

「ルキウス様!?」

「なっ!? いえいえ、マリエッタ様もおられるますし、隊長はこのお二人をお守りに……!」

「二人を守るために、僕たちが行くんでしょ。マリエッタ」

 硬い表情だったルキウスが、よく知る甘さを持って瞳を緩める。

「急いでアベル様と、王座の間に向かって。あそこは常に防護魔法が張られていて、一番、安全なはずだから。出来るね?」

 疑わない瞳。
 そう、そうよ。こんな所で震えている場合ではない。
 私には戦う術がないのだから。せめて、出来ることをしなくては。

「はい、ルキウス様。……どうか、お気をつけて」

「ありがとう。マリエッタがいてくれるのだもの。張り切ってお仕事してくるよ。……アベル殿下」

 発した名の方を向くと同時に、鋭利に細まる金の眼。

「どうか、彼女を傷つけませんよう。この身よりも大切な相手ですので」

「言われずとも。彼女は俺にとっても守るべき人だ。アベル・ジラールの名にかけて、彼女には髪一本触れさせない。……行こう、マリエッタ嬢」

「は、はい……っ」

 引き抜いた剣を右手に構えるアベル様の、差し出された左手に自身のそれを委ねる。
 私の手を握りしめ、駆けだしたアベル様に続いて、私も走りだした。

(ルキウス、どうか無事で……!)

 視線だけで振り返った先。
 微笑みながら私を見送るルキウスの瞳は、なぜか、どこか悲し気に見えた。