アベル様の掌に力がこもる。

(……どうして)

 どうしてそう、熱のこもった瞳で私を見るのだろう。
 この目には覚えがある。まるで、かつて彼に焦がれていた私の――。

「運命ではなく、俺は俺の意志で伴侶を選びたい。初めてそう、思えた。……マリエッタ嬢。俺はキミを――」

「探しましたよ、アベル殿下」

「!?」

 突如として響いた軽やかな声に、二人揃って視線を跳ね向ける。
 国に忠誠を誓う真っ黒な制服。柔く凪いだ風に踊るのは、私のドレスと同じ銀糸の――。

「ルキウス、さま」

 強張る頬で零した私に、彼がにっこりと麗しい笑みを作る。

(どうしてルキウスが……!?)

「……ルキウス」

 低く発したアベル様が、苦渋の表情で、

「なぜ、このような場にいる」

「それは殿下がよくご存じでしょう。なんといっても今日の僕の仕事は、殿下の護衛なのですから」

(ちょっとルキウス! そんな言い方じゃ不敬にあたるんじゃ……っ)

 あわあわと青ざめた私にもなんのその。
 ルキウスは飄々たる笑みで私に視線を流すと、

「会場に戻るのなら、送るよ。マリエッタ」

「え……ですが、アベル様は」

「もうすぐジュニーが来るから、任せておけばいいよ」

 私へと歩を進めたルキウスは、「殿下」と目だけでアベル様を見遣り、

「よろしいですか? 僕の"婚約者"を優先して」

「…………ああ」

 苦々しく眉間を歪めながら、アベル様が頷く。
 私が慌てて「私なら平気ですわ、ルキウス様。ですからアベル様に――」と断りを入れようとすると、ルキウスは少し腰を折って私と視線を近づけ、

「アベル様もああ言ってくれていることだし、実際、お強い人だから。マリエッタが心配することは何もないよ。ジュニーもそろそろかな」

 ね、と。まるで駄々をこねる幼子をあやすような声で、ルキウスが左手を差し出してくる。
 本当に、いいのだろうか。
 戸惑いにちらりととアベル様を見遣ると、彼は無言ながらもしっかりと頷いてくれた。

(アベル様の許可も頂けるのなら……)

 戸惑いがちながら、ルキウスの掌に指先をそっと乗せる。
 途端、ぎゅっと握りこまれた。「わ」と身体がよろめいたのは、ルキウスが私を引き寄せるようにして腕を引いたから。

 よろめいた私を受け止めた腕の強さと、近い顔に心臓がばくばくと跳ねまわる。と、