自身の幻影にくすりと小さな苦笑を零して、私は隣のロザリーへと視線を向ける。

「ロザリーは初めてのお茶会ですわよね? といっても、私もそう経験が豊富なわけではないのだけれど。まずはお茶をいただきにまいりましょう」

「……はい。ご一緒させてください、マリエッタ様」

 ロザリーとお茶と受け取り、軽い食事を楽しむ。
 彼女がエストランテの称号を得てから直接会うのは初めてなので、会話は自然と聖女祭での出来事に。

「あの時……ロザリーがエストランテの称号を得る瞬間に立ち会えて、本当に良かったですわ。あの瞬間を見逃していたら、ずっと後悔していただろうから」

「マリエッタ様……。その、こう言っていいものか随分と悩んだのですが……。私も、マリエッタ様がいらっしゃってくれて、本当に嬉しかったです。あの時の、喜びに涙してくださったマリエッタ様のお顔を、今でも鮮明に覚えています」

「それは……っ、その、忘れてもらえないかしら」

「申し訳ございません。マリエッタ様のお願いとはいえ、ちょっと難しいかと」

 弱ったような笑みを零すロザリーに、私は「もう、恥ずかしいのに」と頬を膨らませる。

 それでもロザリーは怯えるどころか、どこか嬉し気な笑みを浮かべるものだから、私もまた仕方ないと息をついて、

「……でも本当、こうしてロザリーと共に大切な瞬間を記憶として刻めたのは、ルキウス様のおかげですわ。彼には本当に、感謝していますの」

 途端、ロザリーが迷うようにして視線を落とした。
 疑問に首を傾げた私に、彼女は「その、マリエッタ様」とためらうように切り出し、

「アベル様のところへは、後程ご挨拶に……?」

「っ」

(ロザリーは、アベル様への恋心のことを聞いているのだわ)

 周囲から見た、ここでの私は"ルキウスの婚約者"。だから誰に聞かれても困らないよう、遠回しな言葉を選んでくれたのだろう。
 伺うような表情に察した私はぐっと密かに片方の掌を握り締め、

「……いいえ。私には、必要のないものですわ」

「! それは、つまり」

「ええ。私は"ルキウス様の婚約者"。今は……心から、そうでありたいと思っていますの」

「……っ」

 驚愕に見開く瞳に、私は無理もないわと苦笑する。