「当然ですわ。だってロザリーのドレスは、絶対に素敵なものでないと嫌ですもの。叶うならば揃いの仕立てでって、私も何度も想像していたわ。ロザリーのおかげで、私の理想が目の前にあるの。私こそ感謝すべきだわ。本当に素敵よ、ロザリー」

「あ、ありがとうございます、マリエッタ様……っ」

(ああ、本当に私ってば、なんて素敵なお友達に恵まれているのかしら!)

 貴族の中に友人と呼べる相手はいないけれど、こうしてロザリーといつまでも仲良くいれたならそれだけで……。
 頬を赤く染めるロザリーの愛らしさに和みながら、見つめ合っていたその時だった。

「静粛に。アベル殿下のご入場にございます」

 高らかに告げる男性と、視線を集めた先。
 堂々たる足取りで現れたのは、主役であるアベル様。

(アベル様……っ)

 誰が発するでもなく、会場中のご令嬢がスカートを摘まみ上げ頭を下げる。
 私もまた、動揺を隠しながら同じく。

「……頭を上げよ」

 低く、落ち着いた。ほんの数日前まで、この心を歓喜に震えさせていた声。
 今は緊張を先行させるその音に頭を上げた刹那、ばちりと視線があった。

「っ」

 思わず息を呑む。と、アベル様はすいと視線を外し、会場に集うご令嬢方を見渡すようにして、

「こたびは急な開催にも関わず、参列いただき感謝する。短い時間となるが、思い思いに楽しんでいってほしい」

(勘違い……だったのかしら)

 視線が交わったあの瞬間、彼の表情に変化は見られなかった。
 もしも本当に目が合っていたのなら、怒りの色を帯びるとか……。
 そもそも、無礼を働いた私を視界にいれたくはないだろうから、嫌悪に眉を歪めたっておかしくはない。

(私ったら、まだアベル様を慕っていた時の癖が抜けていないようね)

 この会場に集まるご令嬢はざっと三十。おまけにこんなにも後方にいるのだから、あの一瞬で私を見つけるなんて不可能に近い。
 たまたまこちらを向いていた彼を、"自分を見ている"と勘違いしてしまったのだろう。
 彼を想い、その瞳にほんの僅かでも自身を写してほしいと願っていた、かつての頃のように。

 アベル様による開始の宣言が終わり、宮廷音楽隊による演奏が始まると同時に、彼はあっという間にご令嬢方に囲まれてしまった。

(ほんの少し前なら、私もあの輪に加わっていたに違いないわね)