(さっきの、あの表情は)

 ずきりずきりと軋む、胸が痛い。

(……喜んで、くれなかった)

 そうか。私は期待していたんだ。自分でも知らないうちに、身勝手に。
 私が自ら"ルキウスの婚約者"だと明言したなら、彼が喜んでくれるものだと。

(思い上がりも甚だしいわね)

 つい先日まで、何度もアベル様が好きなのだと。婚約破棄をしてほしいのだと、散々振り回していたのに。
 今の気持ちを、贖罪を告げないまま喜んでもらおうだなんて、傲慢にもほどがある。

(そうよね。まだちゃんと、ルキウスが好きなのだと伝えていないのだもの)

 あのような言い方では、私が義務感から"ルキウスの婚約者"として振舞うつもりだと伝えたのだと、勘違いされてもおかしくはない。
 そう、勘違い。……勘違い、よね。
 ――でも。

(ルキウスは、肯定してくれなかった)

 私が"婚約者"なのだと。
 途端、ルキウスの言葉が脳裏に浮かんだ。

「ずっと、こうして誰よりも一番近い距離で、キミを見つめていられたらいいのにね」

 この言葉は、いったいどんな意図があったのだろう。
 長期任務で離れる寂しさから?
 それにしては、どうにも気にかかるような……。

(なんだか、嫌な感じがする)

 胸に重くのしかかる息苦しさは、真意の見えない不安と恐怖。

(……大丈夫。考えすぎよ)

 自身を鼓舞するように、ぎゅっと掌を握る。
 信じたい。信じなきゃ。
 だってルキウスはいつだって、私を大好きでいてくれたのだもの。
 さっきだって、あんなにこのドレスを喜んでくれていた。憶測で彼の気持ちを疑うなんて――。

「マリエッタ様……っ!」

 安堵を含んだ呼びかけに、私は声の主へと振り返る。
 スカートの端を軽く摘まみ上げ、私に向かって小走りで駆け寄ってくる彼女は。

「ロザリー……!」