黒騎士さま、溺愛しすぎです!~ぼっち令嬢は悪役令嬢ではなく真の歌姫になる~

「僕たちの任務には、ご令嬢の安全確保もあったと思うのだけれど。つまるところ僕がマリエッタの側にいるのだって、立派な仕事だと思わない?」

「思いません! 隊長はマリエッタ様しか守る気ないじゃないですかあ。対象は、会場のご令嬢みーんなですよ! で、隊長の分担はアベル様の護衛です!」

「気が乗らないなあ。僕も会場担当にしてよ」

「ぜーったいにダメです! だいたい、隊長がご令嬢方の側をちょろちょろして大事な"婚約者候補"を横取りしたなんてなったら、オレ達も困りますよお」

「僕はマリエッタにしか興味ないよ?」

「そんなことは知ってますよ。それでも隊長に興味満々なご令嬢は、わんさかいるってことです!」

 ぜえはあと肩を上下しながら反論するジュニーが、なんだか可哀想になってきた。

(加勢、してあげようかしら)

 そもそも私がルキウスを足止めしていた元凶だもの。
 少しくらい、手伝わなきゃ。

「ルキウス様」

 私はルキウスの指先をそっと包み上げ、

「ルキウス様のお仕事ぶりを間近で拝見できるなんて、楽しみですわ。しっかりお勤めを。私も役割を果たしますわ。その……ルキウス様の、婚約者として」

(いっ、言っちゃった……!)

 言った、とうとう言ってしまった。自分はルキウスの"婚約者"なのだと。
 心臓がうるさい。なんだか背に、汗が滲んでいるような気がする。

(か、顔が見れない……!)

 繋いだ掌から、跳ねまわる心臓の音が伝わってしまわないかしら。
 どきどきと胸を叩く心臓に気を取られていると、

「……マリエッタ」

「はい?」

「――ありがとう」

「っ!」

(どうして、そんな、悲しそうな微笑みを)

 胸の鼓動が喉を締めるような、嫌なものに変わる。
 するりと離された掌のぬくもりを、無意識に追いかけようとした刹那、

「はい、じゃあいいかげん戻りますよお。失礼します、マリエッタ様」

「また後でね、マリエッタ」

「あ……は、はい。お気をつけていってらっしゃいませ」

 咄嗟に笑顔を取り繕って、二人を見送る。これ以上の邪魔は出来ない。
 にこりと笑みを残して去っていくルキウスは、よく知る"いつも通り"なのに。