ちゅ、と軽いキスを優雅に落として、

「そのドレス、今日、着て来てくれたんだ」

 揶揄する言葉に、ドキリと心臓が鳴る。
 聖女祭でルキウスにアベル様色のドレスをばっちり見られてしまったところ、ミラーナの懸念通り、ルキウスの対抗心に火をつけてしまったようで。

 後日訪ねてきたルキウスは、懇意にしているブティックから大量のドレスを取り寄せていた。

「そういえば、僕からドレスを贈ったことはなかったよね? 好きなだけ選んでいいよ。マリエッタの好みに合うものがなければ、オーダーでもいいし」

 有無を言わせない笑顔に、私は頷くしかなく。
 いくつかの押し問答を繰り返した結果、一着だけ贈っていただくことにした。

 淡いグレーを主体にした軽やかな生地に、散りばめられた金糸の刺繍。ルキウスのいろ。
 このドレスをアベル様のお茶会に着てきたのは、私なりの決意の現れなのだけれど……。

「……せっかく贈っていただいたドレスですもの。着なくては勿体ないですし、お店の方にも失礼ですわ」

(もーーーーどうしてルキウス相手だと、こんなにも可愛くない言い方になってしまうの!?)

「あのっ、いえ、それだけではなくてですね……っ」

「ふふ、大丈夫だよ、マリエッタ」

 ルキウスは可笑しそうに目尻を和らげ、

「理由はどうであれ、すごく嬉しいよ。……ずっと、こうして誰よりも一番近い距離で、キミを見つめていられたらいいのにね」

「っ、それは、どういう意味で……」

「もお~~~~! やあーっとみつけましたよおー!」

「! ジュニー様!」

 必死の形相で駆けてくる見知った顔に、思わず名を呼ぶ。
 と、ルキウスの側で停止した彼は、肩を上下させながらも無理やり口端を上げ、

「お変わりないようでなによりですー、マリエッタ様」

「え、ええ。ジュニー様もお元気そうで安心いたしましたわ」

「オレまで気にかけてくださって、ありがとうございますー。ほーんと、元気でないと勤まらないといいますか」

 ぺこりと頭を下げたジュニーは、非難めいた目をルキウスに向け、

「まったく、こんなことだろうと思ってましたよお。すみませんが、楽しい逢瀬の時間はここまでです。お仕事に戻りますよー」

 パンパンと手を叩いて催促するジュニーに、ルキウスは「でもさ」と不満気に息をつく。