ミズキ様は戸惑ったように瞳を揺らしてから、

「マリエッタ様。私に教えてくださったそのお気持ちは。アベル様ではなくルキウスを好いていると、直接ルキウスにはお伝えされたのかい?」

「……いいえ」

 ふるりと首を振った私は、ためらいを飲み込む。

「過去は、消せません。あんなにもルキウス様の優しさを拒んでおいて、やっぱりこのままでいたいだなんて。……身勝手すぎますわよね」

 ルキウスは、優しい。だからこそ私がこの想いを伝えたところで、今のミズキ様のように、私が気を遣っているのだと考えるだろう。
 ならば信じてもらえるまで、何度も言葉を尽くすのは簡単だけれど……。

 私が彼を裏切り続けていた事実は、変わらない。
 ボタンは一つ掛け違えてしまえば、その後も掛け違えたままになってしまう。
 また、私の気持ちが他に移るのではと。ルキウスはきっと、私を疑い続けなければならなくなる。

(そんなの、苦しいだけだわ)

「ルキウス様が私の幸せを願ってくださっているように、私もまた、ルキウス様の幸福を願っております。けれども私は我儘なもので、自分の気持ちも諦めたくはありませんの。ですが……」

「うまい策が浮かばずに、相談に来てくれたってわけか」

「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

「とんでもない。頼っていただけて光栄だよ。それも、私にとっては嬉しい方向にね。そうかあ……あの子の努力が、やっとこさ身を結んだんだねえ」

 瞳に慈愛を浮かべながら、ミズキ様がぽそりと呟く。
 それから柔い笑みを浮かべて、

「恐れることはないさ、マリエッタ様。私が言うまでもないけれど、あの子は心底あなた様を好いているんだ。ちょっと病的なまでにね」

「そ、それは……なんと、お返ししたらよいのか」

「あっはは! ほら、マリエッタ様もよくご存じじゃないか。だからね、大丈夫。マリエッタ様が心を込めて発した言葉を、あの子が疑うもんか。お前さんたちはね、揃って少しばかり臆病なのさ。お互いに関してね。けれどここらでちょいと、なりふり構わずぶつかってみるのもいいのではないかな。お前さんたちなら必ず、相手を受け止めてやれるはずからね」

「なりふり構わず、ぶつかる……」