「不思議ですわ。噛み応えがあるのに、全く硬くなく……むしろ柔らかいなんて。このソースも、蜂蜜に似たものかと思いましたら、深い甘さの中に塩気や香ばしさも感じられますし……。なによりも、何度も噛んでいますのに、最後まで美味しいままです。むしろこの丸いお菓子の優しい甘さと合わさって、その変化さえ楽しく思えますわ。さらには」

 私は緑茶をすっと飲み込んで、

「これもまた、この緑茶の渋みにとてもよく合うお菓子なのですね」

「うんうん、マリエッタ様ならきっと気に入ってくれると思ったよ。はりきったかいがあるってもんだ」

 ミズキ様は「私もいただこうかね」とみたらし団子を咀嚼して、

「うーん、さっすが私。いい仕上がり具合ってもんだ」

 緑茶を飲み、ほう、と満足げに息をついたミズキ様が、「さてさて」と湯呑みを置く。
 それから藍色の瞳を私に向け、

「私はなにを手伝おうか。あの子……ルキウスもなかなかに頑固者だからねえ。いい加減マリエッタ様を諦めて、婚約を破棄するようそろそろ本腰を入れて説得でも……」

「い、いえ、違いますわ、ミズキ様」

「おっと、説得じゃなくて説教だったか」

「いいえ! そうでは……そうでは、ありませんの」

 私は一度ぐっと瞼を閉じてから、

「ルキウス様との婚約を、破棄したくはありませんの」

 刹那、ミズキ様が薄く息を呑んだ。

「それは本当かい? マリエッタ様」

 じっと、探るような眼で、私を見つめる。

「ルキウスの体裁なんざ、気にする必要はないよ。むしろ、マリエッタ様が気持ちを押し殺す方が、あの子は嫌がるだろうし――」

「いいえ」

 私はくっと背を正す。

「ルキウス様のためではありませんわ。全ては私が、私の心が、求めていることですの。……私は、ルキウス様の隣を歩みたいのです」

 私はぎゅっと胸前で両手を握り、

「散々困らせておいて、今更だと。なによりも気が付くのが遅すぎると、自分でも理解しておりますわ。ですがそれでも私は、自分の気持ちに嘘をつきたくはありませんの。ですから」

 視線を上げる。私は祈るような心地で、ミズキ様を見つめ、

「お力を貸してくださいませ、ミズキ様。どうしたらルキウス様に、私の望みをお伝えできますでしょうか。どうしたら、私は許されるのでしょうか。……簡単に心変わりをするような軽薄な想いだと、袖にされずにすむのでしょうか」

「マリエッタ様の気持ちを、袖に……?」