コホンと咳ばらいをしてみせたルキウスは、バスケットから薔薇を一本取り出した。
 ローズピンクの、私の髪と似た色の花弁。
 ルキウスはそれを、ダンスに誘うようにして私に差し出す。

「聖女祭が終わるまで、まだ幾何かの猶予が。ほんの僅かなひと時で構いません。僕にマリエッタ様の"パートナー"として楽しむ名誉をお与えくださいませんか?」

「ルキウス様……」

(私はこんなにもあなたを傷つけて、振り回してばかりの"悪女"だというのに)

 心臓がぎゅうと締め付けられる。
 こんな私でもまだ、"パートナー"として求めてくれるのなら。

(私の心が大切にしたい、一番の花は)

 薔薇を受け取る。
 私によく似た色の、ルキウスが好んで贈ってくれる、ローズピンクの花弁。

「この薔薇に見合う限りのエスコートをしてくださいませ、ルキウス様」

「! もろんだよ、マリエッタ」

 いつにも増して輝かしい笑みを浮かべたルキウスは、「それじゃ、行こうか」と私の手を救い上げた。
 流れるような仕草で、私のその手を自身の軽く曲げた腕に添える。
 視線を交わし、並んでほんの数歩を進んだところで「あ」と立ち止まり。

「もしかしてなんだけれど、マリエッタ。……嫉妬してくれていたの?」

「な……っ!?」

(嫉妬!? 私が!?)

 うそうそうそ……!?
 ルキウスが他のご令嬢をエスコートするのだと思っていた時のもやもやって、もしかして、嫉妬だったの!?

「……っ」

 信じられない思いではくはくと口だけを開閉させる私を覗き込んで、ルキウスは「え……ほんとに?」と驚いたように呟いてから、

「……っ、ねえ、マリエッタ。それはちょっと、ズルすぎると思うよ? おかげものすごーくキミに口づけたいのだけれど、いいよね?」

「なっ!? い、いいわけありませんわ! そんなことよりも早くエスコートしてくださいませ!」

 顔を伏せ気味にぐいぐいと腕を引っ張って先を促す私に、「だよねえ……」と心底気落ちしたような声。
 ルキウスは力を込める私の手に、そっと自身の手を重ねると、

「キミは本当に、可愛いくて仕方ないよね」

「~~~~っ!!」

 そんな心底弱ったような微笑みを向けてくるなんて、ルキウスこそ"ズルい"と思うのだけれど。

「……そういえば、ルキウス様」