「よろこんでくれたなら、よかった! わたしもね、この花がもっとすきになっちゃった。ほんとうにマリエッタさまとおなんなじなんだもん!」

「ステイシー……」

「そうだ! わたしがエストランテになったら、マリエッタさまにもっともっとたーくさん、このお花をあげるね! ルキウスさまも、それが一番うれしいでしょ?」

 なんて眩しく、純粋な。
 私は祈るような心地で両膝を床について、ステイシーの手を取る。

「強い想いはきっと、あなたを"なりたい姿"へと導いてくれるわ。けれど、一つだけ約束してほしいの」

「なあに? マリエッタさま」

「決して、歌うことを嫌いにならないで。あなたの歌はいつだって、あなたのものよ。嬉しい時だけじゃない。悲しい時や苦しい時だって。きっと、あなたの心に寄り添ってくれるわ」

「心に……」

 私はええ、と頷いて、

「この教会であなたの歌を聴ける日を、楽しみにしているわ。その時は私にも、花を贈らせてね」

「マリエッタさま……、うん! やくそくです!」

 そうして再会の約束を交わし、ステイシー達は教会を去っていった。
 ルキウスの手には、ローズピンクのバラが詰まったバスケット。

「……そういう事情でしたなら、教えてくだされば」

 拗ねるような言い方になってしまったのは、勝手な勘違いで振り回された自分を恥じていたから。
 ルキウスは「ごめんね」と肩をすくめ、

「先に事情を話してしまったら、マリエッタがあの二人をもてなしてあげなきゃって、アベル様との約束を断ってしまうんじゃないかと思ったんだ。キミは心が温かい人だから」

「…………」

 確かに事前にあの二人の話を聞いていたら、ロザリーに会わせてあげたいとか、せっかくなのだから最高を思い出を……とか、色々と計画を立ててしまった気がする。

 それを心が温かいというのかとか、本当にアベル様のお誘いを断っていたのかは、わからないけれど。
 ひとつだけ、確かなことがある。

 ――ルキウスは本当に、いつだって私を大切にしてくれる。

「……心が温かいのは、ルキウス様のほうですわ」

「どうだろう。でも、マリエッタが僕を見直してくれたのなら、こんなにも嬉しいことはないよ。それでなのだけれど、マリエッタ」