「この子、以前からエストランテ様への憧れが強くて……。ですので聖女祭では、こうして教会の公演に連れ出しているのですが、私達のような平民では席に座るなど到底叶いません。それを今回、ルキウス様とマリエッタ様のお取り計らいによってあんなにも前列で観覧させて頂けて……。本当に、本当にありがとうございました」

「ありがとうございます! ルキウスさま、マリエッタさま!」

(そういうことだったのね)

 ようやくわかった。ルキウスは私達の席を、この親子に譲ったのだわ。
 ルキウスを見遣る。彼は肯定するようにして、にこりと微笑み、

「ステイシーは本当に歌が大好きなんだ。僕が花を買う時も、よく歌ってくれるんだよ」

「そう、でしたのね……」

「あのね、あのね!」

 ステイシーの声に、二人揃って視線を投げる。

「ルキウスさまとマリエッタさまに、あげたいのがあるの、です!」

 ママ! と母親からバスケットを受け取ったステイシーが、私達に向かって駆けてくる。

「どうぞです!」

 膝を折って受け取ったルキウスが、バスケットを開く。と、

「これは……」

「ローズピンクの薔薇……!」

 ところ狭しと見事に咲き誇るその花々は、間違いなく、ルキウスがたびたび私に贈ってくれる。

「お礼なの!」

 にぱっと笑うステイシーに続いて、彼女の母親が申し訳なさそうに言う。

「私達にご用意できる中で、一番に喜んで頂けるものはその花かと思いまして……。多大なるご厚意を賜ったにも関わらず、そのようなものしかお返しできず、申し訳ありません」

「"そのようなもの"なんかではありませんわ!」

 思わず叫んだ私は、心がじんと熱くなるのを感じながら、

「本当に……本当に、素敵な薔薇ですもの。それを、こんなにも……頂きすぎですわ」

「マリエッタさま、こまってる? 嬉しくなかった?」

「いいえ。とても嬉しくて……感謝をどう伝えたらいいか、わかりませんの。私、この薔薇が大好きなんですもの」