思わず飛び出た言葉に、彼女――結衣さんは苦笑いした。
 厳しいなこの人、なんて心の中で思っているんでしょうね。
――そうよ、私は若いだけの何にもわかっていない女には厳しいの。

「祖母をよくご存じなんですね。どうぞおかけください」
「ソファなんて結構よ。まだまだ健脚なんだから」
「……失礼しました」
「ねえ、あなた。このお店、昨日派手なピンクのフレアスカートを四十代の女の人に売ったでしょう?」

 かまをかけると、結衣さんは目を丸くした。図星。やはりここの店だったのね。

「はい。本当に昨日のことで……でもどうしてそれが」

 私はわざとゆっくり丁寧な口調で答えてみせる。
 それが年配の女の篤実な態度というものよ。

「昨日来たお客はね、うちの長男のお嫁さんなの。あの人、どうやら『あれ』を着てから人が変わったんじゃないかしらって思うのよ」

 おかしなことをいう老婆だとあきれるだろうが、感じた事実を率直に伝える。
 絹子さんならわかってくれるだろう。
 この若い孫に伝わるかはわからないが。

「……変わられた……かもしれませんね」

 どう答えるべきか思案している風に結衣さんは答える。
 そこで言葉を終えるかと思いきや、違った。

「お嫁さんはきっと……服の力を存分に引き出されたのでしょうね」

 たまげた。
 同時に、安堵した。
 この答え、さすが絹子さんの孫娘だ。

「服のこと、愛しているのね」
「もちろんです」
「じゃ、私に合う服をお願いするわ」

 無茶ぶりをすると、彼女は狼狽しつつも、「わかりました」と承知した。

「でもひとまずおかけになりませんか。お久しぶりのショッピングはゆっくり楽しみましょう」

 しつこくソファを勧められ、私は腰掛けた。

 それにしてもこの子は観察眼が鋭いわ。
 久しぶりに私が服を買いに外出したことを見抜いている。

「そのことば、まさか外出無精の年寄りに対する皮肉じゃないでしょうね」
「え! そんな。お気に障ったようでしたらすみません」
「でも正解ね。なぜわかったのか一応聞いておこうかしら」