ギリギリと頭に感じる手からも、かなり怒っている事が伝わってきた。遅れて気付いた雪弥は、ひとまず臨時パートナーとして協力していた事を思い出して謝った。

「……ほんと、すみません。でもまさかの事態でもあったというか」
「知ってる。そっちに関しては、僕にとってもかなり予想外だったからな」

 睨み付けていた宮橋が、けれど言いたい事を残した顔で手を離した。

「君、怪我は?」
「え? ああ、別にありませんけど」

 雪弥は、てっきり説教でもくるかと思っていたから少し意外だった。ぼさぼさになった頭に手をやりつつ、美麗な顰め面を不思議そうに見つめ返す。

「それで、あの子、一体どうなっているんですか? ツノどころか、血が欲しいと言われたと思ったら、爪で顔面抉られそうになりましたよ」
「鬼化が進んでいる」

 不機嫌そうな顔で、じっと見つめながら宮橋がキッパリ言う。

 鬼……雪弥は現実感がなくて、思わず呆けた声で反芻した。ふわっとした動きも、これまで見た事のある暗殺技術とは違うようだったので、納得出来るような、出来ないような……。

「えぇと、結構保護するのは大変な気がするんですけど、どうするつもりです?」
「当初と変わらない。僕らは彼女を捜し出す」

 行くぞ、と宮橋が踵を返した。

「気になる事は多々あるが、じっとしているより歩きながら考える。――あのまま鬼化が進んだら、彼女は自ら血を求めて人を襲う『本物の母鬼』になるんだぞ」

 そうしたら、もう人には戻れない。

 雪弥はその後に続きながら、語る彼の声がどこか寂しげなように聞こえて、なんと返せばいいのか浮かばす「――そうなんですか」とだけ相槌を打った。

 ひとまず、妙な事になってしまっている先程の少女を捜さないといけない、というのは分かった。