場が鎮まった時、直前の殺気に警戒したかのように、少女がふわりと後退した。

 雪弥はハタと我に返った。気付いて目を戻したら、彼女の姿が薄暗い向こうへすぅっと消えていくように見えなくなっていく光景があって「は」と呆けた声が出た。

 あっという間に少女の姿が消えてしまった。

「ああ、しまった。君のせいで逃げられた」

 すぐ近くで足音が止まって、宮橋が不機嫌に呟く声が聞こえた。

 ゆっくりと雪弥は隣を見た。

「…………すみません、あの、なんか状況の整理が頭の中で追い付かないんですが。――今、消えていったように見えたんですけど」
「『向こう側』に入られたんだ。この世界からは消えるに決まっているだろう」

 くそ、せっかく見付けたのに、と苛々した横顔で宮橋が答えてくる。

 やっぱりなんだか分からなくて首を捻っていたら、ギロリと睨まれてしまった。あ、まずいかもと察知した直後、雪弥はガシリと頭を鷲掴みにされていた。

「君、よくも逃がしてくれたな」

 あ、これ、僕が確実に悪いという感じになってる……。